コミュニティとビジネスの関係

【連載】コミュニティについて vol.8

原因と結果を結びつける20世紀

20世紀の思考方法が染みついた我々は、原因と結果をどうしても結びつけたくなります。何かをすると何かが起きる、目的に向かってプログラムを考える。こういう発想からアクションプログラムができて、その効果測定を設定していくのです。ところがこの原因と結果の間にあるのは、通常様々な要因です。要因が重なって起きた場合、理解するために簡単にして問題を解こうとするのです。特にビジネスの上で、売り上げを上げるためにこのような考え方は広がってきたともいえます。目的とターゲット、方法とプロセスというのがお決まりの思考方法です。そして議論されるのは、どのタイミングで広告を打つのか、それはどんな規模で行い、その内容は何か、さらにどのような媒体で告知していくのかというように、対象や方法が決められていくのです。
しかし、そのことにもう一度疑問を持つべきだと思い始めました。成長していた時代のマーケーティングは、ある意味、何をしても成功するケースが多いです。ただ成功の理由が、戦術の成功であったかどうかわからない場合も多いのです。そして今私たちは、近代という時代を経て、新しい成熟の時代に突入しています。この成熟した時代には、こうした戦術が当てはまらないケースのほうが増えてきているのでないでしょうか。また、既存のビジネスモデルと、今の時代の様々な動きがうまく符合しなくなってきているのではないでしょうか。

コミュニティづくりとビジネスとの関係

このシリーズでも、コミュニティ活動の重要性について何回も書いてきました。
近代という時代が機能性や合理性、そして価格や品質といったことを基準に、商品やビジネスを作ってきたのに対して、今は関係性の時代になったともいえます。そうした時代の変化の中でコミュニティづくりは、様々な社会課題を解くために重要なアプローチだと言えます。しかし先に書いたように、そのことが企業の売り上げにどう貢献するのかということをよく問われます。そこでコミュニティとビジネスの関係を考えるときに、どうしてもこの因果関係について考えずにはいれないのです。
多くの場合、共感をつくり、ファンをつくり、コミュニティをつくることが顧客獲得につながっていくという考え方をすると思います。確かに結果として、コミュニティづくりがビジネスにおいても有効に作用することが多いために、「コミュニティマーケティング」という言葉もうまれました。その状況をつくりだすために、顧客との関係性を変えていくこと、生産者と消費者という関係から、同じ目線に立って、同じ方向を見ながら歩んでいく仲間へと関係性を変えていくことが大事だということは、どの本にもかかれているでしょう。しかし、そのことをコミュニティ作り=ビジネスチャンスの拡大と捉えると一気に思考が閉じてしまうということに気づき始めました。

シンクロという概念

さてここで少し新しい考え方を紹介しましょう。
先の因果関係をA→B→C…とするならば、新しい考え方ではABCの間に因果関係はないとしてみるのです。コミュニティが活性化すると、ビジネスが生まれることは、実際には起こるのですが、このことを因果関係として考えるのでなく、シンクロとして捉えます。私たちの世界の中で起きる様々な現象をシンクロとして捉えると、理解しやすいことが多くなります。一見因果関係のないものがシンクロして近づいていくのです。イメージとしては三次元でとらえると分かりやすいかもしれません。それぞれバラバラなものが、上から見ると同じ位置に重なるというのがシンクロのイメージです。2つの磁石がお互いに引き寄せるように近づいていくのです。

位相について

このシンクロの概念では、因果関係でなく、様々な事象を独立したレイヤーとして考えていきます。このレイヤーはテーマと置き換えてもいいでしょう。たとえば社会課題であれば、子どもの貧困、母子家庭の食事問題、子育ての助け合い、高齢者ケアの助け合い、認知症、待機児童の問題、住居の不足、単身世代の孤独、フードロスやゴミの分別や再利用の問題など。また自己啓発の課題であれば、スキルや知識の獲得のための学習機会など、ほかにもゴミ拾いや防災などのコミュニティ活動などもあるでしょう。そしてビジネスには、ビジネスのテーマがあります。企業であれば組織内でのコミュニケーションの方法、遊びやサークル活動であれば、その内容によって分けられるはずです。それぞれのテーマの中で、最善の楽しみ方をすることに集中し、他のテーマとは独立して存在していて、他と繋がっていないものとして、まずは一つずつ深く考えてみましょう。そのことをレイヤーという表現しました。

ただ遊べばいい~アイデアがわきでてくる状態~

次にそれぞれのレイヤーの中で、自分自身が最高の状態を作り出していきます。体の状態や心の状態、脳の状態を高めていくことです。つまり夢中になって楽しめる状態です。人間はこの状態になると、次々とアイデアが沸き起こってきます。集中して楽しむことで、普段気づかないことにも気づいていきます。またゴールを設定しないことも重要です。常にもっと楽しくするための方法を考え、さらなる高みに登っていくのです。子ども達が遊ぶときにゴールを設定したりしないでしょう。ただ目の前のことに集中して深くそのことに没頭していくのです。

解像度~観察と文字化という行為から作られる意識~

もうひとつ、こうした没頭と並行して必要なことは観察です。これは意識しないとできないかもしれません。人々の行動でも、自分の意識でも対象はいろいろありますが、行動の奥にある意識に目をむけて何が起きているのかを推測してみるといいでしょう。無意識に行動していたことを、もう一度その行動を考えて、そのことを書き留めていくのです。客観的に見つめなおすことで、ものごとに対する解像度が上がります。この解像度こそが、創造的な行為への大事なステップになります。そうすると、さらに新しいアイデアが生まれ、様々な活動がより楽しくなります。先の夢中になって体の状態を高めることに加えて、意識を高めることができるのです。この2つを手にしたとき、人は最大のエネルギーを発揮し始めます。

関係性の重要性

コミュニティは、そのグループ内の人と人の関係性でなりたっていることは疑いありません。以前、「コミュニケーションの仕方を考える」(2019年10月18日配信)でも触れましたが、関係性の維持のためには、人に対してプラスのストロークを投げ続けることです。困っている人はいないか、自分が手伝えることはないか、そうした視点によって自然と沸き起こる行動が関係性をつくり、強化していきます。
そしてもうひとつ忘れてならないのは、関係性の原点は、相手を受け止めることです。まずは相手の状態をすべて受け入れていくことが何より大切になります。相手の話の値踏みをしたりしないこと、評価をしないですべて受け入れることです。

ビジネスはその状態から必然的に生まれてくる

はじめの設問に戻りましょう。コミュニティとビジネスの関係を、コミュニティからビジネスが生まれると考えるのでなく、コミュニティはレイヤーごとにある活動です。遊びの仲間であれば、ただ遊べばいいのです。ボランティアをするときは、ただボランティアをすればいいのです。またビジネスをする時は、ビジネスのことを考えればいいのです。その中に楽しみや意義をみつけて、自分を最高の状態にたもっていく努力があればそれでいいのです。そしてこのように違ったレイヤーのことを同時におこなっていくうちに、自然とコミュニティとビジネスはシンクロし始めます。問題は、ビジネスを考える人が、自分の状態を高みに上げているかどうかです。日常の暮らしを、ビジネスで培った視点だけで判断していないかということなのです。時代は今新しい時代に突入しているとするならば、既存のビジネスとは古い社会システムの上になりたっています。だから、矛盾が起きやすいのです。矛盾を解こうとするのではなく、それぞれの活動で思い切り楽しんでいくうちに、次第に全体がひとつの方向性へと進んでいくと考えてはどうでしょうか。
あえてコミュニティ活動をビジネスに繋げないこと。そしてそれを突き進むことでビジネスにシンクロするということを信じてみるのです。どうしてもすぐにビジネスと繋げてしまう思考から一度離れてみましょう。そうしないと、そのコミュニティはどんどん面白くなくなるのです。そしてビジネスも、成功からますます遠のいてしまいます。

今回のテーマは少し難解です。しかしコミュニティ活動をしている方はどこかで気づいている問題のようにも思います。みなさんは、どのように思いますか。ご意見お寄せください。

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