床の間に花を飾る

このコラムではこれまで、様々な方法を用いてたくさんの緑を家や共用部に取り入れることを考えてきました。今回は、その対極にあるプリミティブな緑の飾り方について考えます。

今年のお正月、皆さんのお宅では、お正月用の花をどこに飾りましたか?
かつては、お正月飾りの定位置といえば、どこの家でも「床の間」でした。亭主が客に対して色々なメッセージや心を込めて置くわけですから、床の間に置くことは厳かさや神々しさといった印象を与えました。
しかし、生活様式の変化によって、今では多くの家から姿を消した床の間。今回は、花を飾る場所として、改めて床の間の価値を考えてみたいと思います。

床の間とは
床の間の起源は室町時代に遡り、客を迎える部屋としてつくられます。
そもそも「床」とは、ものをのせたり、位の高い人が座る、一段高い場所をいいます。そのため床の間は、部屋の中で一番神聖な場所とされるのです。

「床の間」は、落掛(おとしがけ)、床柱(とこばしら)、床框(とこがまち)という部位で構成されています。この要素で囲まれた空間は、絵の額縁のように、または舞台の装置のように私たちの前に現れます。
このほかにも美術品を印象的に見せるため「光」にも工夫が凝らされています。書院と呼ばれる窓から光を取り入れ、和紙を通した光が、床の間を柔らかく照らします。また床の間の上部には、小さな壁が設けられ影を作っています。この影が、床の間の空間の中で、掛け軸や生花に陰影を作り、描かれた世界観に奥行きを持たせています。



物の価値は背景が決める

デザイナーの原研哉さんは著書『白』で、日の丸のデザインについて以下のように書いています。

「白を背景とした赤い丸という構図は、地に対して図が何かを象徴する構図のひとつの典型である。丸は赤さそのものでなく、白とのコントラストにおいて赤い。赤が円であるということも、四角い背景とのコントラストを際立たせている。」

(原研哉「白」,中央公論新社,2008年5月,52ページ)

日の丸は、白という背景があるから、赤い丸が意味を持つと言うのです。例えば、部屋の中にお茶碗を1つ置いても、茶碗そのものの価値は分かりませんが、背景を作ることで、見る人に対して、その価値を作り出すことができるとも言えそうです。
これは、床の間の考え方に通じます。光と影を使って90センチの奥行きの中に、特殊な空間、陰影をもった舞台を作り出し、飾られている物たちに価値を与えているのです。

 

心の時代における、床の間

床の間の歴史は室町時代に始まったと書きましたが、さらに成熟し、文化になったのは戦国時代です。千利休が作った待庵(たいあん)という茶室は、たった2畳と床の間という小さな空間でした。床の間には、その日に行われる茶席のテーマが掛け軸として掲げられ、亭主の作り上げる世界観を、置物や花といった季節の設えで想像させました。ヒントはあっても答えを考えさせる、客の知識とイメージの拡大を重ね合わせていく。そうやって、亭主からのメッセージを読み解いていく中で、客の心を開き、感性を開いていく役割も床の間にはありました。

ある時は、床の間に飾った水盤に桜の花びらを散らして、山々の桜吹雪を想像させて、その一坪の茶室から、山々にまで思いをはせさせる。物そのものではなく、背景や削ぎ落とされた要素に心を寄せて全体を想像させる。床の間という装置があることで、人は自ずと想像力が発揮され、自然とのつながりを感じることができるのです。

昔に比べて住空間が狭くなっている現代。「床の間なんて無駄」という考え方もありますが、狭い家の中にこそ、小さくても無限の広がりを作り出す舞台装置が必要だと思います。

例えば上の図のように、マンションの壁の一角に、そういったものを作ることができるかもしれません。置き家具として作ることもできそうです。ライティングで灯りを調整し、アロマをたけば、小さな背景が生まれ、小さな舞台装置となるでしょう。床の間には、大きさは関係ありません。小さくても背景があることで人の五感を最大限引き出し、イメージを拡張させる、そんな無限の広がりを作れる装置です。そして日々の暮らしの中で、自ずと緑との繋がりを実感させてくれる装置でもあります。
皆さんは、現代における床の間についてどう思いますか?ぜひ、感想をお寄せください。

 

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