人と地域をつなぐランドスケープの力
ランドスケープ・デザイナー 中津秀之さん

フージャースでは千葉市中央区で、ファミリー向けの「デュオヒルズ蘇我ザ・スカイ」とシニア向けの「デュオセーヌ千葉蘇我」の一体開発プロジェクトを行いました。
フージャースの「ソーシャルデベロッパー®へ」という理念のもと、掲げられたコンセプトは「永く暮らし続けられる街へ」。総戸数407戸の大規模開発でありながら、ファミリーとシニアが自然に共存する住環境を目指しました。その一環として、隣接する宮崎公園のリニューアルにも取り組んでいます。
前回は、ランドスケープに込めた考え方や、「コミュニティは目的ではなく手段」という中津先生の思想について伺いました。今回は、その考えを宮崎公園でどのように形にしようとしたのか、そして公園が果たす役割についてお話を伺いました。
公園を多世代交流の舞台に

今回の計画では、マンションの中と地域、この二つの交流をどう生み出すかを考えるところから始まりました。中津先生が着目したのは、マンションの徒歩圏内にある宮崎公園でした。ファミリー世帯とシニア世帯が暮らすマンション内での交流だけでなく、地域の人々とも自然につながる場として、公園を活用できないかと考えたのです。「子育て世帯は地域との接点を持ちやすい一方、高齢者はマンションの中でも外でも知り合いが増えにくい。だからこそ、公園という開かれた場所で、多世代が交わるきっかけをつくりたいと思いました」。さらに中津先生は、子どもと高齢者が自然に顔を合わせる風景を思い描いていました。「学校帰りの子どもに地域の方が『おかえり』と声をかける。昔は当たり前だったそんな関係が、地域への愛着を育てていくと思うんです」。
マンションと公園をつなぐという発想

当初、中津先生は、公園までのアクセスそのものを変える提案もしていました。宮崎公園へ向かうには坂道があり、交通量の多い道路もあります。特に高齢者やベビーカーを押す保護者、小さな子どもに対する安全面への配慮が必要でした。そこで考えたのが、マンションから公園へ直接アクセスできるペデストリアンデッキ(歩行者専用通路)です。民間の敷地と公共空間を立体的につなぎ、地域の人もマンションの敷地を通りながら公園へ向かえる動線をつくることで、「マンションができたことで公園に行きやすくなる」という関係性を目指していました。最終的にはデッキは実現されませんでしたが、敷地内の中庭を通って公園へ向かう動線が整備され、結果として通り抜けできる環境が生まれています。「マンションができたおかげで公園へ行きやすくなった、と地域の方に感じていただけたら、それは地域への貢献になるだろうと思いました」。
つくばで生まれた、新しい関係

人のつながりを生むランドスケープデザイン【公園のある暮らしインタビュー vol.6】 ランドスケープ・デザイナー 中津秀之さん
この発想の背景には、中津先生が以前、つくば市で携わったプロジェクトでの経験があります。その計画では、マンションと公園を隔てるフェンスを取り払い、公園をまるでマンションの中庭のように利用できる環境を整えたのです。「公園は行政のもの、マンションは住民のものという境界を越えた、びっくりするようなパターンができました」と中津先生は話します。その経験が、宮崎公園での取り組みにも生かされているのです。
公園を育てる人を育てる

一般的に公園は、行政が整備し、住民が利用するものというイメージがあります。宮崎公園でも、困ったことがあれば行政へ要望を伝えるという関係が続いていました。しかし中津先生は、その関係を変えたいと考えていました。「大切なのは『参加』ではなく『参画』なんです」。住民が設計段階から関わり、施工の一部にも携わることで、「自分たちでつくった公園」という意識が生まれます。その意識が、公園への愛着や、守り育てようという気持ちにつながっていくといいます。
宮崎公園では、リニューアル工事で長期間立ち入りができなくなる前に、住民参加型のワークショップを実施しました。地域の人たちにリニューアルを身近に感じてもらい、完成を一緒に楽しみに待ってもらうためです。芝生の養生期間には、芝生を囲う杭にメッセージを書いてもらうワークショップも行いました。「自分が書いた杭があると、家族や友達を連れて見に来たくなる。自分の思いが公園に残ることで、『この公園は自分たちが守っている』という気持ちになるんです」。目指しているのは、公園を完成させることではありません。「公園を育ててくれる人を育てること」。それが、ワークショップの本当の目的だといいます。「このワークショップでは、入居予定家族と地域住民の両方が参加してくれたので、知り合った子ども同士が仲良くなって『早くマンションに引っ越して〇〇ちゃんと遊びたい!』と言っているのを聞いて、人と人のつながりこそが、これからの地域を創ってゆくのだと学ばせて貰いました」と中津先生は笑顔で話します。
このまちが「ふるさと」になるために

中津先生に、10年後、20年後の宮崎公園がどのような場所になっていてほしいかを伺いました。「ワークショップに参加した子どもたちが大人になり、親になって、この公園でピクニックをしながら『ここで一緒に何かやったよね』と話してくれたら、それが一番うれしいですね」。子どもたちの中には、成長して一度このまちを離れる人もいるかもしれません。それでも、子育てをきっかけに戻ってきたいと思える場所になっていてほしいと中津先生は話します。その背景には、多世代が自然に支え合う地域への思いがあります。「高齢者は地域のエネルギーなんです。子どもたちがいるから生きがいができて高齢者も元気になれるし、高齢者がいるから子育て世代も安心して暮らせる。そういう関係が地域の中にできたらいいと思っています」。まちへの愛着や地域との交流により、このまちに魅力を感じたら、1人が出ていっても、いずれ家族となって戻ってくるという、人口が自然に安定する形を目指すことができると中津先生は考えています。
完成後も育っていく公園
今回のプロジェクトは、ファミリー向けマンションとシニア向けマンションが一つの敷地内に建つ、珍しい取り組みでした。しかし、中津先生にとって、公園の完成はゴールではありません。8月には学生が主体となる3回目のワークショップも予定されています。「これからもイベントを重ねながら、それが特別なことではなく、地域の日常になっていけばいいと思っています」。地域の人が公園に関わり、使い、思い出を積み重ねる。その積み重ねによって、公園だけでなく、公園を育てる人も育っていく。ランドスケープとは、空間を設計するだけの仕事ではありません。人と人、人と地域との関係を育み、その場所に愛着を持つ人を増やしていくこと。宮崎公園もまた、地域とともに少しずつ育っていく公園になるのかもしれません。
中津秀之(なかつ ひでゆき)
帯広畜産大学、筑波大学大学院を経て、ハーバード大学・デザイン系大学院・ランドスケープ学科修了。建設会社設計部勤務の後、有限会社サイトワークス・ランドスケープ研究所を主宰すると共に関東学院大学准教授。
ランドスケープ・アーキテクトとして、多くの建築家とともに多様な外部空間の設計を手掛ける一方で、子どもの遊び空間の調査研究を通し、自然環境を活かした「まちづくり」活動や団地再生など地域活性化の活動を展開。「グッドデザイン賞」、「公共の色彩賞」など、多数の賞を受賞。
千代田区まちづくり景観審議会委員や逗子市環境審議会委員など、公的委員職も多数。一般社団法人TOKYO PLAY理事。

デュオヒルズ蘇我ザ・スカイ
https://www.hoo-sumai.com/duohills/soga/
所在地:千葉県千葉市中央区
交通: JR京葉線・外房線・内房線「蘇我」駅より徒歩11分、京成千原線「千葉寺」駅より徒歩8分
総戸数:263戸
階数:9階建て
竣工: 2026年2月

デュオセーヌ千葉蘇我
https://www.duoscene.jp/soga/
所在地:千葉県千葉市中央区
交通:JR京葉線・外房線・内房線「蘇我」駅舗より徒歩12分、京成千原線「千葉寺」駅より徒歩9分
総戸数:144戸
階数:7階建て
竣工: 2026年2月