もしもの時、誰でも迷わず初動対応ができる「First Mission Box®

私たちフージャースには、「こころ躍る、コミュニティ室」(以下、ここコミ室)という部署があります。2011年の東日本大震災を機に、コミュニティ形成が共同住宅の重要な価値になると考え、ここコミ室を立ち上げました。
ここコミ室では、居住者交流会などを通してゆるやかなコミュニティづくりを支援していますが、今回私たちが改めて向き合ったのが、災害時のコミュニティのあり方です。たとえ良好な人間関係があっても、発災直後の混乱の中では、誰が・何を・どう動くべきか判断するのは容易ではありません。そんな不安を解消するため、「デュオヒルズ六甲道」に導入したのが、防災ツール「First Mission Box®(ファーストミッションボックス)」(以下、FMB)です。

 

その場にいる人だけですぐに動ける仕組み

通常、マンションには被災時の行動をまとめた防災マニュアルがあります。その多くが理事会や管理組合といった「組織」が機能することを前提に作られていますが、災害は必ずしも理事が揃っている時に起こるとは限りません。その場に誰がいるかわからない状況で、数十ページに及ぶ重厚なマニュアルを読み解き、冷静に判断を下すのは至難の業です。また、最近は分譲マンションでも理事会を置かない「第三者管理方式」を採用する物件も増えており、組織ありきのマニュアルでは対応が難しくなっています。
この課題を解決したいと考えた私たちが出会ったのは、管理組合という組織の枠組みを超え、その場に居合わせた居住者が自主的に集まって即座に動けるような、直感的でシンプルな指示書、それがFMBでした。FMBは、一般社団法人危機管理教育研究所 の国崎信江さんが自治体と共同開発したツールです。それをベースに、マンションの防災支援を手がけてきた(株) つなぐネットコミュニケーションズの協力のもと、「デュオヒルズ六甲道」に合う形へ落としこみました。

 

箱を開けるだけで動きがわかる

FMBは、その場に居合わせた人同士で災害時の初期対応を行えるように設計された、直感的な行動指示書です。取るべき行動がカードに書かれており、カードの指示に従うだけで、誰でも迷わず行動できる仕組みになっています。
ボックスの中には、班ごとに色分けされたカードが収められています。班は、マンション全体の統率を取る「本部班」、建物の安全を確認する「建物確認班」、居住者の安否確認・救助を行う「安否確認班」、トイレなど被災生活の基盤を整える「生活班」の4班あり、それぞれの行動のステップが細かく分けられています。例えば、ボックスを開けた人が最初に手にするカードには、「この指示書を見ているあなたへ」という言葉と共に、周囲に協力を仰ぐための具体的なセリフが書いてあります。
これまでのマニュアルは、いわば教科書のような、集中して読み込み、内容を理解していなければ使えないものでした。対してFMBは、現場で即座に使える「To Doリスト」です。いかにハードルを下げ、行動を促すかを一番に考え、災害時の落ち着かない状況でも視覚だけで理解できるようにしています。
このボックスは居住者の方が日常的に使う共有部に設置しておきます。「どこにあるか」と「何かあったらこれを開ける」ということさえ知っていれば、予備知識がなかったとしても、適切に行動することができます。

 

「72時間の壁」を、居住者自身で乗り越えるために

ここコミ室が向き合う社会課題として、防災は避けて通れない要素の一つです。その中で私たちは、既存のマニュアルの実効性に疑問を持っていました。コミュニティ形成を手掛ける組織として、形ばかりのマニュアルを納品して「備えは万全です」と終わらせることは本意ではありません。大災害が起きた際、管理会社がすぐに全物件へ駆けつけるのは、現実的には不可能です。交通機関が遮断され、通信も不安定になる中で、生死を分けると言われる「発生後72時間」をどう生き抜くか。それは、その場にいる居住者の皆さんの手に委ねられています。
フージャースの物件では、これまでも十分な耐震性の確保や防災倉庫の設置など、ハード面での仕様を充実させてきました。しかし、どれほど優れた設備があっても、使い方が分からなければ宝の持ち腐れです。いかにして居住者同士で困りごとを解決し、助け合って、この72時間を安全に乗り越えていただけるか、その最適解を模索した時に出会ったのがFMBでした。

今回の導入にあたっては、社内の建築担当とも議論を重ねました。FMBを導入するということは、単に箱を置くことではありません。非常時の本部はどこに置くか、仮設トイレをどこに設置するか、セキュリティの担保はどう行うかなど、ソフト面での動きを具体的に想像することで、設計段階から災害時に使える空間作りを意識する必要があったからです。建築担当者からは、「今回の導入によって、ハード面だけでなく、それをどう使うかというソフト面まで具体的に想像して設計に反映できた。何が必要で、何が足りないのかが明確になったので、今後の仕様にも活かしていきたい」という声が上がりました。
マンションの防災は、建物を建てるモノづくりと、住んだ後の管理の両方に関係するものです。建築から管理までを自社グループで担うフージャースだからこそ、このハードとソフトの融合を実現できたと感じています。

 

マンション暮らしに、もしもの時の安心を

今回FMBを初めて導入したのは、兵庫県神戸市の「デュオヒルズ六甲道」です。次は茨城県水戸市と熊本県熊本市の物件での採用を予定しています。くしくも、いずれも過去に大きな地震の被害があった場所です。フージャースはそのほかの被災地にも多くの物件を持ち、その土地の皆さんのリアルな経験や記憶、防災に対する高い意識を間近で感じる機会が多くあります。真に安心できる住まいを提供し続けることに、私たちはこれからも向き合わなければなりません。
FMBの導入には、「もしものことがあった時、マンションで被災された方の心の支えに少しでもなってほしい」という想いも込められています。もちろん、課題もあります。何年も使わずにいれば、存在を忘れてしまうかもしれませんし、いざという時に開けることに躊躇してしまうかもしれません。だからこそ、コミュニティ作りに関わる組織として、今後は実際にFMBを開いて、使い方をレクチャーする機会を作るなど、設置した後のサポートもできたらと考えています。
日常のゆるやかなコミュニティが有事の際の助け合いへとつながるように、私たちはこれからも確かな安心の仕組みを形にしていきます。