思いを重ねる言葉
「いってきます」と「いってらっしゃい」

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

毎日当たり前に使う「いってきます」。諸説ありますが、私たちがこの言葉を使うようになったのは、明治以降のことだといわれています。それまでは、意味を同じくして「行って参ります」を使っていたそうで、それが変化して、「行ってきます」と言うようになりました。日本人は、古くからこの言葉を大切につかってきたのです。

「いってきます」は、「こんにちは」や「さようなら」といった挨拶と比べて、家族や親しい間柄の人、同じ空間を共に過ごす人に対して使うことが多い挨拶です。家族や恋人に「こんにちは」と言われると、少し距離を感じますが、「いってきます」と言われると「私は今、この人と同じ空間にいる」という感覚が自然と生まれ、互いのつながりを実感します。
行ってきますは、正しくは「行って来ます」と書き、「行きます(が、必ず帰って)来ます」という言葉を省略したものです。江戸時代にすでに「行って参ります」が使われていたことから、昔は旅をすることや夜道を歩くことも命がけだったので、「行って参ります」と言うことで、形式的な挨拶を超えて、大切な人に対して「必ず帰ってくる」という誓いを立てていたのでしょう。また送り出す側は「いってらっしゃい(無事に行って、帰っていらっしゃい)」と言うことで、相手の誓いに対して思いを重ねていたのです。挨拶を通じての、祈りのようにも思えます。

また「いってきます」は、時代背景によって伝え方が変化したという記録も残っています。戦時中には、出陣の際に「いってきます」や「いって参ります」とは言わず、「いきます」と言っていたそうです。国のために、必ず戻るという言葉がはばかられたこと、そして戻ることを約束できなかった時代背景が、この言葉からは伝わってきます。
このように「行ってきます」という言葉は、再会を願う気持ちとともに、今一緒にいられることの大切さをも私たちに教えてくれるのです。

「いってきます」、「いってらっしゃい」という定型句があるのは日本だけで、この言葉を直接英語に置き換えることはできません。これからも大切にしていきたい言葉です。

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