ソーシャルデザインカンパニー、YADOKARI

―“タイニーハウス”から広がるこれからの暮らしの選択肢
さわだいっせいさん ウエスギセイタさん

@YADOKARI
左: ウエスギセイタさん 右: さわだいっせいさん

「YADOKARI」は、タイニーハウスやスモールハウスでの“小さな暮らし”を軸に、新たな時代の豊かさを発信し続けているソーシャルデザインカンパニーです。2018年4月、横浜市日ノ出町~黄金町駅間にオープンした日本初の高架下タイニーハウス複合施設「Tinys Yokohama Hinodecho」をはじめ、移動可能な「可動産」を活用した施設の企画・運営やタイニーハウスの開発など、住まいや暮らしに関わるユニークな取り組みが注目を浴びています。さわだいっせいさん、ウエスギセイタさん(YADOKARI共同代表)にYADOKARIの軌跡と未来についてお話を伺いました。

小さく豊かな暮らしを考える「未来住まい方会議」

世界中の小さな家やユニークなミニマルライフの事例を紹介するウェブメディア「未来住まい方会議」は、YADOKARIの原点です。「2011年に起きた東日本大震災をきっかけに、人生の豊かさの基盤となる“暮らし”を見つめ直していった」という2人。その当時は同じweb制作会社で働くwebデザイナー、webプランナーとして、眠る暇もないほど仕事に打ち込む多忙な毎日を送っていました。

人口は減少の一途を辿り、1~2人暮らしの世帯が約60%を超える現代の日本社会で、60平米以上のマイホームを持つことは本当に必要なのか? 高い家賃を払って都心部の賃貸マンションに住むことは、果たして時代に合った幸せな暮らし方なのか?など、それまで当たり前とされてきた暮らしのあり方に対して次々と疑問が浮かび上がる中、2日もあれば、DIYで簡単に建てられるスウェーデンのスモールハウスや海や島々が一望できるノルウェーの海辺に建つタイニーハウスなど、先進国の各地では、小さく豊かな暮らしを実現している事例が数多くあることを知り、2人は衝撃を受けたのでした。

“これからの豊かさを考え直すきっかけ”としてタイニーハウスに着目した2人は、世界のありとあらゆるタイニーハウスやスモールハウス、ミニマルライフの事例をリサーチし続け、1年365日休むことなく毎日交代で記事を書き、webで発信していったのです。

時を同じくして、建築家・坂茂さんの発案で宮城県女川町に建てられた仮設住宅を見学に行きました。基礎を打たずに、海上輸送用のコンテナを2~3階建ての市松模様に積み上げることによって、189戸の住居スペースを確保した仮設住宅は、耐震性、耐火性、遮音性に優れているだけでなく、無印良品が提供したインテリアで飾られるなど、小さいながらも居心地の良さそうな空間。実際に住んでいる人たちに聞くと、「豊かな毎日を過ごせている」とのことでした。

「コンテナは、飛行機や船、トラックなどの交通インフラに乗せてどこにでも移動できる。もしそれを家にしたら、世界中を旅するモバイルハウスができるかもしれない」。女川町の仮設住宅にヒントを得た二人は、そのアイデアを提案してみたい一心で建築系のコンペに応募し、大手不動産や建築設計事務所など300組以上の応募の中から、なんとファイナリスト6組に入選。たとえ素人であっても、住まう人の視点で「こんな暮らしがあったらいいな」という具体像をきちんと伝えることができれば、受け止めてくれる人や見てくれる人がいる。それを実感した二人は前職を退職し、YADOKARIを本格的に始動させることを決めました。

移動式スモールハウスは、人とつながり合える大切な居場所

@YADOKARI
最初に開発した「INSPIRATION」。自分にとって本当に大切なものだけを収納できるサイズになっている。

YADOKARIを立ち上げてから最初に開発したのは、250万円の移動式スモールハウス「INSPIRATION」。車1台を買うよりも安く買える住宅をつくってみようと、250万円という価格設定ありきで生まれたスモールハウスは、夫婦2人、小さな子ども1人の3人家族が暮らせる住居として、シャワー・トイレ・キッチンの生活に必要最低限の機能を兼ね備えた約4坪のワンルーム。20フィートの海上用コンテナをもとに設計されているので、ミニマルで洗練された空間ごと、トレーラーや船などの交通インフラで輸送できるモビリティ(移動性)を確保しています。

季節や趣味に応じて、好きな場所に移動するライフスタイルも叶えられるINSPIRATIONの販売をスタートした当初、2人が驚いたのは、1年間に寄せられた4000件を超える問い合わせの7割以上が60歳以上の熟年層だったこと。丁寧にヒアリングをしていく中、ひとつの共通ニーズが浮かび上がってきました。それは、「築40年の木造2階建ての母屋は子や孫に生前贈与して、自分たち夫婦は庭に15~30平米ほどのスモールハウスを建てて住みたい」というもの。その背景には、「お金よりも、居場所を確認できる人間関係が近くに欲しい。家族と一緒に暮らす安心感を得たい」という想いがありました。

この“居場所”や“人間関係”というのは、スモールハウスを持ちたいと考える若い層の人たちにとっても重要なキーワードになっているようです。例えば、名古屋在住の4組の30代夫婦。岐阜県のある土地をシェアで購入し、ウッドデッキや露天風呂を自分たちでつくって、週末にみんなで集まる場として使っていました。そこに加わったのが、またしてもシェアで購入したINSPIRATION。なぜ、土地もスモールハウスも4家族でシェアして買ったのか、その理由を聞くと、「自分たちの居場所ができるから。いろんな人たちに使ってもらいたいし、一緒にBBQをしたりして、その人たちとつながるための場として共有していきたい」という答えが返ってきたそうです。

このほかにも、鎌倉の不動産・建築事務所「エンジョイワークス」とのコラボレーションによって生まれたプロジェクトがあります。好きなライフスタイルをインストールできるタイニーハウス・小屋「THE SKELETON HUT(スケルトンハット)」も今では大きな広がりを見せています。

さまざまなタイニーハウスの開発やプロデュースを行ってきたYADOKARI。設立から8年目を迎えた今では、さまざまな企業からのオファーが増えています。

@YADOKARI
名古屋在住の4組の30代夫婦が購入したINSPIRATION。週末になると、家に手を加えに訪れる。

可動産・タイニーハウス×コミュニティビルドの融合
『BETTARA STAND 日本橋』

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約2年間、日本橋の顔としてたくさんの人が訪れた「BETTARA STAND 日本橋(ベッタラスタンド ニホンバシ)」。

「BETTARA STAND 日本橋(ベッタラスタンド ニホンバシ)」は、宝田恵比寿神社横の約150平米の駐車場だった土地に、移動可能な不動産(=可動産)やDIYでつくる屋台などを活用して生まれたイベント・キッチンスペース。三井不動産から依頼を受けたYADOKARIが企画から運営までトータルプロデュースしたこの施設では、2016年12月のオープンから暫定利用期間終了までの約2年間で450本以上のイベントが開催され、3万人を超える人々が来場し、日本橋エリアの交流人口増加に大きく貢献しました。この不動産から動産への取り組みは彼らの提案に大きな影響を与えました。

移動できるもの、つまり可動産にすることでさまざまなメリットがありますが、キッチンやトイレの水まわり設備などのクリアしなければならない問題もあります。トレーラー住宅のようなかたちで運営している施設も多いですが、実際のところ法律的にはグレーゾーンで摘発されたケースも少なくありません。彼ら2人は行政の人たちと1年をかけて話し合いを重ね、上下水道、電気、通信ケーブルをインフラにつながない着脱式にすることで、可動産として使用することを正式に認可されました。

もうひとつBETTARA STAND 日本橋がユニークなのは、「街と一緒に創る・コミュニティビルド」という概念をテーマに掲げ、総勢400人の参加者とともにDIYで施設をつくりあげていったことです。プロに頼めば1ヶ月半ほどで完成できるところを、あえて工期を3ヶ月ほど延ばして毎週末にワークショップを開催し、つくる過程を多くの人と共有していったのです。合理的に考えれば、時間もコストもかかりますが、「人々が関われる“余白”をあえてつくることが大事なのではないかという僕らの実験でした。セルフビルドの過程をうまくデザインできれば、施設の運用も含めて新しいプロジェクトのあり方がつくれるのではないかと思った」と話します。

日本初の可動産・タイニーハウスを活用した高架下複合施設
「Tinys Yokohama Hinodecho」

@YADOKARI
日ノ出町駅から徒歩5分。Tinys Yokohama Hinodechoからはいつも賑やかな声が聞こえてくる。これまであった日ノ出町のイメージを一変させた。

日本橋のBETTARA STANDで培ったノウハウが余すことなく活かされているのが、2018年4月にオープンした日本初の可動産・タイニーハウスを活用した高架下複合施設「Tinys Yokohama Hinodecho」。京浜急行電鉄との連携のもと、横浜市日ノ出町・黄金町エリアの活性化の一環として、YADOKARIがトータルプロデュースを行いました。

京急電鉄が走る横浜市日ノ出町~黄金町駅間の高架下には、3棟のタイニーハウスホステルをはじめ、カフェ・イベントスペース、SUPなど水上アクティビティの拠点「Paddlers+(パドラーズプラス)」があり、すべての施設はトラックで現地に牽引された可動産です。この施設をつくるにあたって、さわださんたちは可動産の定義について横浜市と協議し、中央区の場合と同様に、上下水道や電気のインフラを着脱式にすることをルールとしました。

ホステルは男女別のドミトリー、1棟貸し切りの2タイプがあり、各部屋4人まで宿泊可能で、外国人観光客だけでなく、日本人にも人気が高く女子会のニーズが高いのだそうのです。高架下というと騒音が気になりますが、二重ガラス窓や防音屋根が採用されており、室内からはかすかに聞こえる程度。「ホステルの8月の稼働率は7割くらい。いい感じで動き始めている」と話します。今後カフェ・イベントスペースでは、YADOKARIが得意とする住まい方、働き方、食などライフスタイルに関連したさまざまなイベントが開催される予定です。

世界に広がるタイニーハウス・ムーブメント

アメリカを発端に世界中に広まっているタイニーハウス・ムーブメント。2007年にサブプライムローンをきっかけに起きた世界同時不況によって、「シンプルで無駄のない生き方」に注目が集まり、タイニーハウスの人気に拍車がかかりましたが、近年は、自分でカスタマイズした車で移動しながら働き、住まう「vanlife」という暮らし方が、ミレニアム世代のカウンターカルチャーとして大きな広がりを見せています。

モノよりも経験、他者からの共感や評価を重視する彼らの価値観において、vanlifeは住まいより暮らしに使えるお金を増やして人生の豊かな時間を享受しようという根本的な考え方に加えて、インスタグラムで「#vanlife」と検索すると約540万件の投稿がヒットするほど、そのライフスタイルで暮らす人たちの間には、互いの暮らしぶりをSNSで共有するコミュニティが広がっていることも大きな特徴です。

「vanlifeに火がついたのは、インターネットの恩恵が大きい。パソコン一台あればどこでも仕事ができるという利点を活かし、こうしたライフスタイルを合理的に選択する動きが広まっていることは、まさに時代の転換点だと感じる」と2人は話します。

日本国内でも、夫婦2人旅をしたいシニア層を中心にキャンピングカーの人気が高まり、2018年の売上高が過去最高の約420億円に達したと言われています。またほかにも、千葉県白浜町のシラハマ校舎に建てられた「無印良品の小屋」や建築家・隈研吾さんがデザインしたスノーピークのモバイルハウス「住箱 JYUBAKO」など、大手メーカーも小屋や可動産を手がけるようになりました。

YADOKARIが見つめる未来の暮らしの可能性

近年のすさまじい人工知能の発達によって、車の役割が大きく変わろうとしています。これまでの移動手段としての車から、物流、物販など多目的に活用できるようになったり、または車と家が合体したようなものまで研究され始めています。まさに可動産としての家です。それは、移動手段だった車と家や車と仕事場の境界があいまいになって、そこから新しい暮らし方が生まれてくる可能性を示唆しています。このことは2人にとっても大きな刺激になっています。新しい取り組みとして、ハイテクを使った移動と暮らしをつなげることに積極的にチャレンジしていこうと考えています。

特に注目したいのは、「便利になるそのことに意識を向けるのでなく、技術の発達の中で生まれる便利さとは別の人や地域との関わりといったようなことに意識を向けたい」ということです。「車と家、車と仕事が合体したときにどのような人との関わりが生まれてくるのか、またその関わりをどうつくるのかを考えていくのが面白い」と言うのです。

シンギュラリティと呼ばれるコンピューターが人間の頭脳を超える時代に、“モノ”の進化ではなく“コト”の進化とも呼べる人や地域、ひいては社会との関わり方に新しい暮らしの可能性があるのです。

確かに、今まで彼らが提案してきたタイニーハウス、移動式スモールハウス、小屋、vanlifeなどは、さまざまな人たちの想いを乗せてたどり着いた暮らしのかたちです。それはある意味、技術の進化とは逆のベクトルで進んできたとも言えます。セルフビルドにみられるように、誰もが関われるローテクでの暮らし方でした。これからは、そうしたローテクとは対極とも言えるハイテクと暮らしの融合にもチャレンジしようと考えているのです。しかし、そこで重要なのは、今まで取り組んできた人と人の関わりといったコミュニティとの共存です。

小さな暮らしという選択肢。さらに小さな暮らしとハイテク。みなさんはどのように思いますか。ご意見お寄せください。

さわだいっせい/ウエスギセイタ
YADOKARI株式会社 共同代表取締役
住まいと暮らし・働き方の原点を問い直し、これからを考えるソーシャルデザインカンパニー。住まいや暮らしに関わる企画プロデュース、タイニーハウス開発、空き家・空き地の再活用、まちづくりイベント・ワークショップなどを主に手がける。250万円の移動式スモールハウス「INSPIRATION」や小屋型スモールハウス「THE SKELETON HUT」を発表。全国の遊休不動産・空き家のリユース情報を扱う「休日不動産」、空き部屋の再活用シェアドミトリー「点と線」、世界中の小さな家やミニマルライフ事例を紹介する「未来住まい方会議」や新たな働き方を提案する「未来働き方会議」などを運営。名建築の保全・再生の一環で黒川紀章設計「中銀カプセルタワー」や可動産を活用した高架下ホステル&カフェ「Tinys Yokohama Hinodecho」、イベント・キッチンスペース「BETTARA STAND 日本橋」などの施設を企画・運営。著書に「ニッポンの新しい小屋暮らし」「アイム・ミニマリスト」「未来住まい方会議」「月極本」などがある。Tinys Yokohama Hinodechoにより2018年度グッドデザイン賞受賞。