ハバタク

“世界とつながる秋田・五城目町をつくる”という新たな試み
丑田俊輔さん

ハバタク株式会社共同代表の丑田俊輔さん
photo: MIKI CHISHAKI

世界各国の教育機関・企業と連携した高校・大学向けの学習環境デザインをはじめ、さまざまな領域を横断しながら、“新しい学び”を創出している丑田俊輔さん(ハバタク株式会社共同代表)。現在は、秋田県五城目町(ごじょうめまち)を拠点に、地域資源を活用した新しいビジネスや教育プログラムの開発から、まちに開かれた朝市や学校づくりまで、多彩な活動に取り組んでいます。人口9000人の里山・五城目町から生まれたユニークなプロジェクトの数々について、丑田さんにお話を伺いました。

五城目町に一目惚れして、家族で移住

丑田さんが、東京から秋田県五城目町に移住したのは2014年。きっかけは、“通称・ちよプラ”として知られる「ちよだプラットフォームスクウェア」でした。ちよプラは、日本におけるコワーキング・シェアオフィス文化の先駆け的存在として、2004年に千代田区に誕生したシェアオフィスです。丑田さんは地域や行政とタッグを組み、公共施設をリノベーションし、さまざまな世代の人々と地域が共創しながら、新しいビジネスや文化を生み出していくための新しい拠点として再生させました。

そこで出会ったのが、五城目町の人たちでした。五城目町が千代田区の姉妹都市だったことから、ちよプラにサテライトオフィスが入居していたのです。そんなご縁から現地に足を運んでみると、のどかな田園風景やそこに住まう人たちにすっかり魅了され、家族で移住することになりました。

丑田さんの中では、「先の見えない、正解のない時代に、どうすれば持続可能な社会のあり方を日本の足もとからつくっていけるだろうか。日本のローカルから、世界にもっと魅せられることがあるのではないか」という問題意識が芽生えていた頃でした。プライベートでも子どもが生まれ、自分の生き方や子育ての環境を含めて、これからの時代の働き方や暮らし方を見つめ直してみたいと思っていた時でもありました。「具体的なことはまったく想像していなかったけれど、住み始めたら何かが見えてくるのではないかという楽観的な気持ちで移住した」と丑田さんは振り返ります。

“ドチャベン”=土着ベンチャーの活動拠点「Babame Base」

地域発のベンチャー企業が入居するBabame Base。
photo: MIKI CHISHAKI

五城目町に移住する少し前から進めていたのが、廃校舎をシェアオフィスとして再生したプロジェクト。まちの中心部から6kmほど離れたところにある旧馬場目小学校と保育園は、現校舎の時代も含めると138年の歴史を持つ校舎です。2013年3月の閉校以来、町役場の人たちは、ここに企業や工場を誘致しようと力を注いでいましたが、思うような成果が得られず、試行錯誤を繰り返していました。

丑田さんは、町役場の人たちと話し合いを重ねた末、「時間はかかるかもしれないけれど、地域に暮らしながら、地域の中から新しい価値を生み出していくという逆のベクトルで、地域に根ざした起業家を増やしていく」ことを提案しました。子育てや教育の場としてだけでなく、地域のコミュニティ活動の場として、長く住民に愛され続けてきた場所だからこそ、新たなアプローチで、地域の新たな活動拠点として再生しようと考えたのです。

そうして2013年10月に誕生したのが、シェアオフィス「Babame Base」(五城目町地域活性化支援センター)です。入居者は、ハバタクを含む3社からのスタートでしたが、2015年からは、秋田県が推進する「ドチャベン・アクセラレーター」という事業創出プログラムで受賞した人たちも加わり、現在は18社が入居しています。ドチャベンとは、地域に根ざした起業を意味する“土着ベンチャー”の略で、丑田さんは、このプログラムを行政とともにつくり出した仕掛け人でもあります。

Babame Baseに拠点を置く移住起業家たちは、教育、農業、物流、建設業と業種はさまざまですが、それぞれの新しいチャレンジを五城目町から生み出していくという共通の志のもと、今日も活動を続けています。

「シェアビレッジ」という新しいシェアコミュニティの誕生

築133年の茅葺き古民家を再生したシェアビレッジ。
photo: MIKI CHISHAKI

次に丑田さんが取り組んだのは、「シェアビレッジ・プロジェクト」。消滅の危機にあった築133年の茅葺き古民家を“村”に見立てて再生させていくというものです。Babame Baseから徒歩10分ほどの集落にあるこの古民家を初めて訪れた時、「空間のパワーに圧倒された」と話します。オーナーさんが足繁く通い、大切に手入れしてきたという思い入れのある家でしたが、「80歳を迎える今となっては、管理を続けることもきびしく、解体を検討している」ということでした。その一方で、もし責任を持って、この家を未来に残していける人がいれば、そうしたいとも考えていました。

「日本の原風景を未来に残したい」という想いと、かねてから丑田さんの中にあった「田舎と都会はもっと学び合えるはず」という問題提起が合わさって、このプロジェクトは立ち上がりました。田舎の方がいいとか、都会の方がいいというゼロイチ思考ではなく、両者の間にどれだけグラデーションをつくれるか、お互いがシェアして学び合うような環境をどうつくり得るかというチャレンジでもありました。

シェアビレッジは、多くの人でひとつの家を支える仕組みになっていて、“年貢(NENGU)”と呼ばれる年会費3,000円を払えば、誰でも古民家(村)に所属する村民になることができます。クラウドファンディングで呼びかけてみたところ、全国から862人の村民と約617万円の支援金が集まりました。その大半は首都圏に暮らす人たちです。週末になると、村(古民家)には各地から村民が集まり、地元の人たちと食事会を開くなど、交流がさかんに行われています。

「ゲストハウスというよりは、新しいシェアコミュニティをどうつくれるかということにチャレンジしている」と丑田さんが話すように、町内会、お祭り、茅葺きの葺き替えなど、村民が一所に集まれるイベントも随時行われています。2017年には、香川県三豊市仁尾町にある瓦葺のお屋敷が、第2の村として再生されました。今後も、「100万人の村」をつくることを目指して、全国の古民家を村に変えていくプロジェクトが進められていく予定です。

元のオーナーが丁寧に暮らしていたため、非常に心地よい空間が中には広がっている。
photo: MIKI CHISHAKI

新しい朝市が、まちの活気の起爆剤に

520年続く朝市。取れたての野菜や生活雑貨が並ぶ。
出典:五城目移住宣言

五城目町の朝市通り(下夕町通り)では、520年続く朝市が開催されています。しかし、近年は出店者、来店者ともに高齢化が進み、店舗数も減少する傾向にありました。そんな折、地元の30~40代の女性たちから、「私たちも、何か新しいことをやってみたいと思っているのですが…」と相談を受けた丑田さんが考案したのが、「ごじょうめ朝市plus+」という新しい朝市でした。朝市の伝統を守りながら、これまで出店したことのない女性や若者のチャレンジを応援する取り組みです。

定期朝市が開催されるのは、毎月2・5・7・0のつく日です。そのうち、日曜日にあたる日に開催するのが、ごじょうめ朝市plus+。2015年にスタートしたこの新しい朝市では、回を追うごとに出店者が増え、今では60~70店舗が出店するまでの規模に成長しています。

朝市で起業体験をした人の中には、朝市通り沿いにある遊休不動産をリノベーションして、カフェ、パン屋、花屋を開いた人もいます。また、330年の歴史を持つ老舗の蔵元・福禄寿酒造は、向かいのたんす屋をリノベーションして「下夕町醸し室 HIKOBE(ひこべえ)」という施設を2018年5月にオープンしました。日本酒の飲み比べや販売などを行うほか、カフェを併設した空間は、多様な人々が集う交流拠点になっています。ほかにも、遊休不動産を活用して絵本&アートギャラリーを開いたUターン起業家などもいて、ここ3年ほどは、内発的かつ多様なチャレンジの連鎖が起きているのだそうです。

子どもから大人まで、みんなが遊べる「ただのあそび場ゴジョーメ」

学校が終わると子どもたちが集まる「ただのあそび場ゴジョーメ」。手作りの遊具で子どもたちが思い思いに遊ぶ。
photo: MIKI CHISHAKI

2017年11月、朝市通りにオープンした「ただのあそび場ゴジョーメ」は、遊休不動産を活用したあそび場プラットフォームです。放課後の子ども、まちの大人も、遊び仲間を探している人も、誰もが“ただで”遊びに来られる場所です。

この施設を開くきっかけになったのは、前述したごじょうめ朝市plus+の開催を発端に、多くの人が五城目町に集まるようになったことでした。「まちの中心部に“遊び”を通じて集まれる場所をつくることで、これからの学び方、暮らし方、働き方を考えるきっかけになればいいな」と丑田さんは考えました。

地域の大工さんやボランティアの親子など総勢60人が集まり、設計図なしのDIYでリノベーションが行われました。遊具もすべて手づくりです。思う存分落書きしたり、釘で木を打ち付けたりできる「やりたい放題ウォール」など、他にはない遊び心満載の工夫がいっぱい。うんていや本棚の本は、地域の人が寄贈してくれたものだそうです。

五城目町では今、ひとつの集落に子どもが一人いるといった状態です。スクールバスで家に帰ると、ぽつんと一人…でも、ひとりで遊びに行かせるのは、親御さんとしては心許ないものです。ただのあそび場に来れば、誰かしら学校の友だちがいます。地域のお母さんたちがボランティアで“見守り番”をしているので、安心して遊びに行かせてあげることができます。そうした取り組みもあって、子どもたちはここで思い思いの時間を過ごすだけでなく、連れ立ってまちに繰り出すことも増えました。

今後は、ただのあそび場の運営プロセスや家具の設計図などをオープンソース化し、「地域の遊休不動産を活用するムーブメントをつくっていきたい」と野望を語ってくれました。

「遊び」を思いきり楽しむからこそ、見えてくることがある

今、丑田さんが取り組んでいるのは、町民参加型で未来の学校をデザインする「学校建築プロジェクト」。まちで唯一の小学校・五城目小学校は、建設から50年以上が経ち老朽化が進んでいることから、新校舎を建設することが決まりました。「越える学校」をコンセプトに、地域にしっかりと根ざしながらも、さまざまな境界線を越えていく学校を目指した設計を進めてきました。

特筆すべきは、子どもたちの学び舎とは別に建てられる“生涯小学校”という新しい小学校です。地域図書室や多目的スペース、小さなパークなどがあり、子どもはもちろん、町民誰もが利用できる空間になっています。子どもだけでなく、大人も子ども心を忘れずに、遊び学び続けることができるまちになるといいなーーそんな想いとともに、「世界一、子どもが育つまち」を目指して、今日も丑田さんは奔走中です。

丑田さんは、地域の人たちや環境との関わり合いの中で、自然発生的にものごとが創発するプロセスを楽しみながら、時に軌道修正をしたり、別の何かと掛け合わせたりして、数々のプロジェクトを完成させています。その中でキモになっているのは、「遊び=余白」。遊びながら、仲間と一緒に考えていくことで、いつの間にか知恵が集積されてプロジェクト化していくといったことがひんぱんに起きていると言います。

小さなローカルから世界に突き抜けていくようなイノベーションは、“遊びから生まれる想定外”を享受することから始まるのかもしれません。みなさんはどのように思いますか。ご意見お寄せください。

丑田俊輔(うしだ しゅんすけ)
ハバタク株式会社代表取締役(共同代表)/プラットフォームサービス株式会社取締役
1984年会津若松市生まれ、東京都育ち。慶応義塾大学商学部在学中にプラットフォームサービス㈱の立上げに参画。東京都千代田区の公共施設をリノベーションし、ベンチャー企業やNPOのシェアオフィス・ビジネス拠点「ちよだプラットフォームスクウェア」として再生。卒業後、IBMビジネスコンサルティングサービス㈱(現IBM)に入社し、コンサルタントとしてグローバル戦略を担当。アジアや米国の社員とチームで仕事をし、各国を旅する中で世界や日本の課題を実感。2010年ハバタク㈱を創業、世界各国の教育機関・企業と連携した高校・大学向けの学習環境デザインや東南アジア圏でのビジネス展開を支援。2014年4月、秋田県五城目町との出会いを経て、旧馬場目小学校の五城目町地域活性化支援センター内に新拠点「Babame Base」を設立し同町に移住。地域資源を活用したビジネス開発や教育プログラム開発を進めている。目指すは「世界一こどもが育つまち」。