公園への愛着から、「つくばイクシバ!」へ

【公園のある暮らしインタビュー vol.4】 一誠商事株式会社 常務取締役 植北浩典さん

「つくばイクシバ!」は、つくば市の竹園西広場公園で、芝生の育成活動を行っているボランティア団体です。今年6月、「芝生育ては地域育て」というコンセプトのもとに立ち上がり、有志の近隣住民や近隣企業の方たちとともに、青々とした美しい芝生を守るための活動を展開しています。参加者のひとり、植北浩典さん(一誠商事株式会社 常務取締役)は、この公園のすぐそばにある不動産会社に勤めながら、このまちに暮らす生粋の地元民です。今回は、つくばイクシバ!に参加したきっかけをはじめ、まちづくりの理想形やつくば市の未来など、さまざまなテーマについて、植北さんにお話を伺いました。

「やっぱり、つくばが好き。ずっとこのまちに住みたい」

徳島県出身の植北さんは、大学進学をきっかけに関東に移り住み、卒業後は、交通システムのエンジニアとしてつくば市の研究所で働いていました。その後、31歳の時に転職し、現在の一誠商事株式会社に入社。エンジニアから不動産業への転身を図った理由について、植北さんはこう話します。

「中学生の頃から、将来は不動産の仕事に就きたいと思っていましたが、大学を卒業した当時は、不動産業界に飛び込む度胸がありませんでした。でも、30歳になった時、“やっぱり自分のやりたいことをやろう!”と思い立ちました。社会人として初めて働いたまち、つくば市が一番好きだということにも気づきました。この先も、このまちに暮らしながら働いていきたいと思い、つくば市に拠点を構える弊社に転職を決めました」

植北さんが働く一誠商事の本社は、竹園西広場公園から徒歩2,3分の距離にあります。同社は、土浦市、守谷市、水戸市など、茨城県南・県央エリアに支店をかまえ、総勢約310名のスタッフが地域物件の賃貸や売買を担う、まさに地元密着型の不動産会社です。

つくば市の魅力について尋ねると、「地方都市ではあるけれど、首都圏の中心地でもあり、自然豊かで住みやすい。鉄道のインフラも進んでいて、まちは開かれているし、災害も少ない。道路も適度に広く整備されているので、渋滞などのストレスもない。教育機関や病院なども充実していて、子供を育てる環境としても好ましい」と植北さん。つくば市は、他県や近郊のさまざまな地域から移り住む人だけでなく、海外から働きに来ている外国人も多く、「文化が混ざりやすく、外部からの流入がしやすいまちだと思う」と話します。

ボランティア活動を通して体感した「楽しさ」と「公園への愛着」

植北さんが、つくばイクシバ!に参加しようと思ったことには、つくば市に居を構える以前に暮らしていた守谷市での地域ボランティア活動の実体験が大きく影響しています。

「以前住んでいた守谷市の家の近隣に、おちゃやばし公園という200〜300坪ほどの小さな公園がありました。そこでは、近隣の住民の方たちと一緒に、芝生の手入れやそうじをしていたのですが、やってみたら、これが、とにかく楽しくて。自分が暮らす地域の公園に手を携えることが、こんなに楽しいなんて、思いも寄らないことでした。活動を続ける中、公園に対して、それまでにはなかった愛着が湧きましたね。今回、つくばイクシバ!に参加した理由のひとつは、純粋に、つくば市の地域住民のひとりとして、公園をきれいにするためのお手伝いがしたかったからです。そうすることによって、まちのコミュニティに少しでも寄与したいという想いがありました」

「会社としても、地元に貢献していきたいし、まちづくりの中で公園って大事なものだと思う」と植北さんは話します。

「つくば市は、人工的に設計されたまちでもあって、公園がとても多いです。洞峰公園や中央公園などの美しく管理されている大きな公園も多くありますが、小さな公園もたくさんあります。そうした小さな公園の維持管理が難しくなっている現状を見ていて、そこにぜひ参加したいという想いもありました」

植北さんは、公園でのボランティア活動の楽しさをもっと多くの人に知ってもらいたいと思い、社内でも呼びかけ、希望者を募りました。

「先着順で、5人ほど募集をかけました。参加者の中には、入社1〜2年目の若手社員も数人いて、『仕事以外でこんな風に地域と関われるのは、すごく新鮮』『こういった形で地域貢献のお手伝いができることに喜びを感じる』といった声が挙がりました。公園がきれいになるのは、本当に気持ちがいいものです。そうじをした後、芝生を刈った後には、目に見えて成果が感じられるので、充実感もひとしおですね」

駅近よりも、公園に近い。そんなまちづくりがあっても面白い

公園の芝生育てやそうじは、地道に活動を続けていくことが何より大切です。そして、植北さんが言うように、参加メンバーが楽しんで取り組むことも大切です。その活動によって、公園や青々とした芝生が美しく保たれることによって、近隣の住民が喜んでくれるという嬉しさはありますが、「より多くの地域の人々に、つくばイクシバ!に参加してもらうためにも、行政にもこの意義を共有していきたい。その他のアダプト・ア・パークの団体とも交流を深めていきたい」と植北さんは話します。

「アダプト・ア・パーク」は、つくば市が実施しているプログラムで、市内の公園を「養子」として見立て、市民が「里親」となって、公園を我が子のように愛情を持って、そうじや除草などの世話を行うというものです。現在、つくば市の37つの公園の美化活動を行う団体が、アダプト・ア・パーク登録団体として認定されており、構成員は、地域住民、自治会、NPO法人、民間企業など、さまざまです。この6月には、つくばイクシバ!も、つくば市のアダプト・ア・パーク登録団体として、新たに加わりました。

「つくばイクシバ!では、東京都中央区で活動しているボランティア団体『育てる芝生 〜イクシバ!プロジェクト〜(通称・イクシバ)』の方々にいろいろとご指導いただきながら、活動しています。それと同じように、つくば市の中でも、アダプト・ア・パーク登録団体間で交流できる場があれば、知恵を出し合いながら、互いに成長していけるのではないかと思います。あくまでも起点になるのは、住民であり、住民の参加ですが、そうした交流の場を作ってもらうことも含めて、今後、長く活動を続けていくためにも、縁のある市議会議員の方などに協力を働きかけていきたいです」

不動産のエキスパートである植北さんは、つくば市のまちづくりについてこう話します。

「つくばエクスプレスが開通したのは2005年です。それ以前のつくば市の居住用物件の価値は、駅からどれだけ近い距離にあるかということよりも、公立学校の学区などによって、変動していました。それから15年経った今では、やはり駅からどれだけ近いかということがひとつの軸になっています。鉄道が開通したことによって、つくば市の不動産に対する価値観が大きく変わったことは間違いありません。しかし、これからは、例えば、駅からの距離ではなく、公園からの距離を見て、『いい公園の近くに住もう!』というような、公園を中心にした住まい方の提案やまちづくりがあっても、面白いのではないかと思います」

つくばの未来を拓くのは、このまちにしかない個性

つくば市に長く暮らし、働く植北さんは、このまちの未来についてこんなイメージを抱いています。

「つくば市は、特区のような、腰を据えて実験や研究を行う実験都市に向いていると思います。最近の不動産業界の話でいうと、コロナウイルスの影響で、飲食店などの新規出店はきびしくなっていますが、つくば市や土浦市などでは、企業の工業団地への進出が進んでおり、ありがたいことに遊休地がほぼなくなっている状況です。つくば市に進出している企業の方に聞くと、つくば市は、交通の便も良いので、働き手を集めやすいとおっしゃっていました。企業誘致は、非常に順調ですし、将来的にもポテンシャルはあると思います」

しかし、魅力的なまちであり続けるためには、「個性を際立たせることが必要だと思う」と植北さんは続けます。

「かつては、鉄道が通ってないからこそ、筑波研究学園都市という個性が際立っていたと思います。しかし、インフラの工事で利便性を追求したまちづくりを進めていくと、魅力が半減してしまうのではないかと。コロナ禍の影響でリモートワークも進み、これを機につくば市への移住も検討している方も増えていると聞きます。つくば市にしかない特別な個性を政策で維持していく必要があると思いますし、それと同時に、このまちに暮らす人々、移り住む人々が住みやすく、企業が進出しやすい魅力的な環境づくりに、もっと力を入れていくべきではないかと思います」

公園でのボランティア活動も、芝育ても、そしてまちづくりも。成熟化したこれからの日本社会にとって大切なのは、すぐにはお金にならなくても、時間軸の長い活動をしていくことなのかもしれません。その先にはきっと、都市の暮らしの未来があるのでしょう。

植北 浩典(うえぎた ひろのり)
1971年、徳島県生まれ。1997年、山梨大学大学院工学研究科修了。2002年、一誠商事株式会社に入社、2017年より現職。
つくばイクシバ!の目的とする「地域コミュニティ醸成」「地域価値向上」に共感し、社としてつくばイクシバ!に参画することを進め、立上げメンバーとなった。

一誠商事株式会社|https://www.issei-syoji.co.jp/