子どもと大人の垣根を越える遊び場をつくる

【公園のある暮らしインタビュー vol.8】しばふあそび 橘 剛さん

しばふあそびの様子

毎月第2土曜日の午前中に、竹園西広場公園で行われている芝生の整備活動「つくばイクシバ!」。昨年2021年5月から、芝生整備活動の後に、様々な年代の子どもや大人が一緒になって自由にあそべる「しばふあそび」というプロジェクトがスタートしました。
「子どもと大人の関係性を超えて、夢中になって一緒に遊ぶ楽しい大人がいる。そんな大人がたくさんいる街にしたい」と語るのは、しばふあそびをはじめた橘 剛さんです。今回は橘さんにお話をうかがいました。

遊びの原点はボーイスカウト

「遊びは、人を夢中にさせて好奇心と試行錯誤を育む」と橘さんは言います。橘さんの遊びの原点は、5歳で始めたボーイスカウトでした。
「ボーイスカウトでは中学生になると、自分達で計画たてて1泊2日でキャンプをするプログラムがあるんです。プログラムを作って隊長に提出するのは大変ですが、親元を離れて友人と焚火で調理したりテントに泊まったりする経験は、わくわくする気持ちと、何にも代えられない楽しさがありましたね」。
橘さんは、ボーイスカウトでの野外活動を通して、自分で考えて行動することや、夢中になることの楽しさを学んでいきました。

つくいちdeプレイパークの様子。(提供・橘さん)

プレイパークの存在

ボーイスカウトの活動に楽しさや、やりがいを感じていたことから、大学卒業後は、仕事の傍ら子どもの体験活動をサポートする都内のNPOでボランティアを開始します。
このNPOは、子どもたちが学校で居場所が見つけられなくても、誰にでも活躍できる場所があることを伝え、社会全体で子どもたちの成長を支えることを目標にしていました。橘さんは、そこに強く共感したのです。
このNPOでのボランティア時代に、現在の活動につながる出会いがありました。それがプレイパークでした。
プレイパークとは、1943年に造園師のソーレンセンがデンマークで始めた活動です。
「きれいに整備された遊び場よりも、がらくたが転がっている廃材置き場のほうが、子どもが生き生きと遊んでいる」という気づきをきっかけに作られた、子どもが自分の責任で自由に遊べる場所をいいます。
現在は全国に数百か所ほどあると言われ、子どもたちが自分で遊ぶための道具をつくったり、自由に遊び方を考えて遊んだりすることを特徴としています。
「プレイパークに初めて来た子どもは、学校や習い事などで忙しい日々に追われているせいか、『自由にしていいよ』と言われても戸惑うことがよくありました。そんな子どもたちに、遊び道具を紹介したり、他の子たちを繋いだりすると無我夢中で遊び出すんです。」
こういった子どもの姿を見て、お母さんやお父さんたちも「こんなに子どもが夢中になる姿は初めて見ました」と、驚くこともあったそうです。
このような経験から、橘さんはプレイパークの必要性を感じ、このプレイパークで子ども達と遊ぶプレイリーダーや、それを統括するボランティアを長らく続けました。

その後、子どもが生まれたことをきっかけにつくば市に転居し、橘さんは所属していたNPOを辞めます。
「NPOの経験から、つくばに引っ越した後も、子どもに関する活動をしたいと思っていました。そんなときに、毎月つくば中央公園の芝生広場で開催されている『つくいち』で、非営利団体「つくばdeプレイパークひろめ隊」がプレイパークを開催していることを知りました」。
実際にプレイパークを覗いてみると、木と木の間にロープを張ったり、ブランコを作ったり、廃材とトンカチで自由に工作ができたりと、とてもコンテンツが豊富なプレイパークでした。
「事前に何の連絡もせずに遊べる格好で現地に行って、ボランティアをやらせてくださいってお願いして。急にそんなやる気満々な大人が来たので向こうも驚いていましたが、プレイリーダーの経験から喜んで受け入れてくれました」。こうして橘さんは、遊びの現場へと復帰します。

子どもと大人の垣根をこえる

いつものようにプレイリーダーをしていると、子どもから「こういう遊び方をしてもいいですか?」と質問をもらうことがありました。橘さんはその質問に、気付かされます。
「プレイパークは自由なものとしながらも、遊び場づくりの結果として無意識のうちに大人が管理者、子どもが利用者という関係性をつくっていたことに気づきました。スタッフと子どもではなく、その場に偶然居合わせた大人として、子どもたちと対等になりたいと強く思いました」。
プレイパークは、物品の準備やスタッフの取りまとめなど、どうしても管理しなければならない面もあります。
「ふらっと出かけたら、そこに楽しそうに遊ぶ地域の大人や子どもがいる。たまたま街で出会った大人と遊んでみたら楽しかった。そういう街にしたいと思いました」。橘さんはプレイパークとは違ったアプローチを考えるようになりました。

プレイパークの様子(提供・橘さん)

やさしい下心

橘さんには子どもと大人の関わりについて、もう一つ気になっていたことがあります。それは、子どもと一緒に公園に来ても、見守るだけで一緒に遊ばない親御さんの姿です。
「大人が本気で遊び、喜んだり悔しがったりする姿を見せることは、子どもにとって良い刺激になります。特に、親御さんのような身近な大人が真剣に遊ぶほど、子どもは自分の遊びに価値があると思え、夢中になれます」。
そこで今、橘さんが積極的に取り入れているのがベーゴマです。「ベーゴマであれば、お子さんのために巻いてあげるという名目で親御さんを巻き込めます。親御さんも初めてベーゴマを回せたら、文字通り子どものように喜んで、夢中になります。大人にも遊びの感動を体感してもらって、家に帰っても子どもとの関りが増えたらいいなという下心ですね」と笑顔です。

つくばイクシバ!芝生整備活動の様子。

しばふあそび

こうして2021年5月から、毎月第2土曜日の午前中に竹園西広場公園で行われている「つくばイクシバ!」のプログラムのひとつとして、「しばふあそび」が開催されるようになりました。芝生整備活動の後の時間を使って、大人と子どもが自由に遊びます。
橘さんが持ってきたベーゴマを使って遊ぶ子どももいれば、公園に落ちている木々で、少し年上のお兄さん達と遊ぶ子どももいます。何か気をてらったおもちゃがあるわけではありませんし、遊びの専門知識をもった大人がいるわけでもありません。でも、そこには夢中になって一緒に遊んでくれる大人がいて、遊び道具になる自然があります。それで十分なのです。
橘さんのチャレンジは、まだまだ始まったばかり。一緒に遊んでくれる人がもっといたらということですから、ぜひ一度覗いてみてはいかがでしょうか。

橘 剛 (たちばな つよし)

【親でも先生でもない「地域の大人」として、子ども達と関わり続けたい】

1980年兵庫県生まれ千葉県育ち、茨城県つくば市在住。
幼少期よりボーイスカウト等でアウトドアアクティビティを経験、学ぶ。
2009年東北大学大学院薬学研究科(博士)を修了後、特許事務所勤務。
サラリーマンの傍らプレイパーク/子どもキャンプなどで子どもの体験活動や遊び場づくりに関わる。

2019年~JBS認定ブッシュクラフトインストラクターとしてワークショップ開催。
2021年~つくばイクシバ!・しばふあそび、つくいちdeプレイパークにて活動。

ブログ
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