社会の未来を考える
ローカルから自治を編み直す

‐paramita 共同代表 林 篤志さん

撮影:高重乃輔

気候変動による相次ぐ自然災害、そして予測を超えて進化を続けるAIの台頭。私たちはいま、かつてない社会の転換点に立っています。この大きな節目において、私たちはどのような未来を描くべきなのでしょうか。

15年近くにわたり、日本各地のローカルプロジェクトを手掛けてきた林 篤志さんは、「人類がいかに生き延びていくかを、真剣に考えなければならない」と語ります。

林さんは、多様なセクターとの共創を通じて社会をアップデートする「Next Commons Lab」のファウンダーであり、「100年後も地球と生きる」という構想を社会実装するチーム「株式会社paramita」の共同創業者でもあります。

ローカルという足元から社会を編み直す林さんへのインタビューを通じ、実装の先に見据える世界像と、これからの時代を生き抜くためのヒントを探ります。

 

自治のあり方を根本からリデザインする

林さんは現在、奈良県奈良市(旧月ヶ瀬村)、三重県尾鷲市、静岡県浜松市(旧水窪町)、奄美大島・龍郷町の4地域で、新たな社会システム「Local Coop」を推進しています。これまで国家や自治体が担ってきた「自治」を、「住民自ら治める」という本来の形へ再設計する試みです。

人口減少期にある日本において、Local Coopは自治体機能を補完しつつ、住民同士の共助を促す”第二の自治体”として機能します。税金以外の財源や人材を確保し、住民が主体となって民間企業と連携。地域の生活に不可欠なインフラや公共サービスを生み出しています。

林さんは、自治が重要である理由をこう語ります。

林さん「人口減少が進み、2050年までに自治体の約4割が消滅する可能性があると言われています。高齢化により都市型インフラの維持が困難になったとき、私たちはいつまで古いシステムにしがみついて生きていくのか。地方自治のあり方を、根本からリデザインする必要があります。」

さらに林さんは、Local Coopを前進させなければならない理由がもう二つあると言います。一つは気候変動、もう一つはAIの台頭です。

林さん「これまで干ばつが起きなかった場所で干ばつが起き、その地域で獲れていた魚が獲れなくなっています。気候変動は待ったなしの状況ですが、国際情勢の緊張もあり、世界が一丸となって対策に取り組むことはかなり難しい。しかしローカルという単位であれば、裏山や川、海を管理し、自然資本を回復させることで、自然の恵みと共存できる環境を自分たちの手でつくることができます。これも自治の重要な側面です。

また、直近ではAIの進化を大きなリスクと捉えています。人口減少や気候変動よりも早く、そのインパクトは訪れるでしょう。驚異的なスピードでAIが進化する中で、人間はどのような存在であり続けるのか。その問いに答えを出さなければならない時代に、私たちはすでに入っています。」

それでも林さんは、「つくりたい世界は自分たちでつくることができる」と続けます。

林さん「主権や自律性を取り戻すことは、コモンズ(共有財)を取り戻すことにつながります。Local Coopは、過疎化が進む現場で現実の仕組みを構築し、自治を広げていくプロジェクトですが、その根底には『社会は与えられるものではない』という考えがあります。本来、社会は関わる人たちの集合的な意思で形づくられるべきものだと思うのです。」

実は、この構想自体は10年以上前から温めてきたものだといいます。当時は「公共領域に民間が入るべきではない」という考えが根強く、なかなか相手にされなかった、と林さんは苦笑します。

林さん「今、Local Coopが受け入れられ始めたのは、残念ながら『このままでは立ち行かない』という厳しい現実が突きつけられているからです。既存の公共領域に、すでに穴が開きつつある。それが現状です。」

 

限界集落で実際に起きた、住民の枠を超えた新しい「自治」

Local Coopの実装に先駆けて2021年に始動したのが、新潟県長岡市の旧山古志村での「仮想山古志村プロジェクト」です。

金倉山の風景(画像提供:山古志住民会議)

20年前の中越地震で全村避難を経験した山古志村は、かつて2,000人以上いた人口が800人ほどにまで減少。「やれることはやり尽くした。10年後には村が消滅してしまう」という切実な相談が、林さんのもとに届きました。そこで林さんが提案したのが、ブロックチェーン技術を活用したNFT(非代替性トークン/書換不可の電子証明書)による「デジタル住民票」の発行でした。

林さん「NFTやブロックチェーンは、中央集権的なシステムに依存せず、自分たちで必要な仕組みをつくるという崇高な理念から始まった技術です。山古志の人たちが『長岡市民になっても、アイデンティティは山古志村民にある』と語るのを聞いて、デジタル住民票の発行を提案しました。」

デジタル村民たちの共同体を「山古志DAO」と呼び、新たな共同体の形を「Local DAO」と定義。地域の未来を共に考え動く仲間と、その活動資金を集めることを可能にした(画像提供:株式会社クリプトヴィレッジ)

これは、エストニアの電子国民プログラム「e-Residency」に着想を得たものだとか。錦鯉発祥の地にちなみ、錦鯉をモチーフにしたデジタルアートをNFTとして発行。それを購入した人は、世界中どこからでも「デジタル村民」として村に関わることができるようになりました。
現在、山古志のリアルな人口は約700人ですが、デジタル村民は1,600名を超えています。世界中から集まった資金は、銀行などの既存システムを介さず、直接村の活動に活用されています。何より特徴的なのは、リアル村民とデジタル村民がデジタルツールで協議や投票を行い、予算の使い道を決定する独自のガバナンスが、すでに機能しているという点です。

林さん「実際、多くのデジタル村民が村を訪れ、祭りを一緒に運営したり、小学校の運動会を共同開催したりしています。テクノロジーの詳細は分からなくても、村の人たちのほぼ100%が彼らの存在を認知し、新しい試みを行う際の前提となっています。村外の力も借りながら村を自治していく実験は、今も進化を続けています。」

山古志での試みは、「デジタル空間で帰属意識が生まれるか」という検証でもありました。

林さん「結果として、特定の場所への帰属意識は、デジタルな媒体を通じても持ち得ることが分かりました。もちろん、雪かきや道路維持といった物理的な課題は残ります。しかし、たとえ将来的に住む人がいなくなったとしても、山古志というアイデンティティを世界中の人が持ち、営みや風景がデジタルアーカイブとして残る。あるいは聖地巡礼のように人が通い続ける。そんな未来も十分に描くことができます。既存の住民票とは別の概念があってこそ、自治の存続性が保たれるのではないでしょうか。」

 

現代における自然資本の維持とテクノロジー

Local Coopのアプローチは、地域ごとに異なります。尾鷲では流域の再生、月ヶ瀬では行政インフラの代替など、数百人から数千人が暮らす規模のコミュニティに、新しい仕組みを重ねようとしています。

Local Coopは、自治体や住民、企業と連携し、地域電力の供給、買い物支援、ごみの資源化など、地域に必要な公共サービスを共助で実現する仕組み(画像提供:株式会社paramita)

林さん「既存システムが崩壊に向かう中、ゴミ回収などは適切な規模感で行い、自然資本は『流域』単位で捉えるなど、多様な尺度で自治に携わることが重要です。有事で化石燃料が途絶えたり、極端な天候が続いたりしても止まらない、地域社会のバックアップ体制を築かなければなりません。」

その根底にあるのは、日本人がかつて持っていた自然観の再構築です。

林さん「かつての日本には、自然を秩序立って活用し、大切にする自然観がありました。今問われているのは、『内なる自然』をしっかり持てるかどうか、そして人間が生き延びるために必要なリソースが激変している現実に、どう向き合うかです。ミツバチが減少すれば作物は育たず、雨が降らなければ水も確保できません。かつて人が山や海に手を入れることで自然の恵みを受けてきたように、現代のテクノロジーを使いながら、自然資源が循環する状態を再発明していく必要があります。」

現在、日本の里山の多くは放置された人工林となり、土砂災害のリスクを抱えています。林さんは「撤退すべきところは撤退しつつ、いかに自然と人間の境界線を維持するかの知恵や身体性を取り戻さなければ、非常に生きにくい国土になってしまう」と強く警鐘を鳴らします。

林さん「このスピードで減少し続けたとき、作物を育てられるでしょうか。気候変動で雨が降らなかったり、極端な大雨が降っても地中に浸透しなかったりしたとき、安定的に水を確保できるでしょうか。生命として生きるためのリソースを確保し続けるためには、自然資源が適切に循環する状態をつくる必要があります。かつて日本が人為的に山や森や海に手を入れることで自然の恵みを受けてきた歴史を、現代社会においても改めて見直さなければいけないと思っています。」

 

国家概念の変容とオルタナティブの構築

林さんは、AIの進化や資本主義における企業の役割についても切迫した危機感を募らせています。

林さん「超合理的なAIが誕生したとき、人間は最適化のための道具になってしまうかもしれません。AIが土地やエネルギーを主導する時代において、人間が人間らしく暮らしを維持できるローカルな空間をつくることは、一種の防衛策でもあります。

企業もまた、単に商品を売るだけでなく、『生存の拠点としてのローカル』をいかにつくるかという視点を持つべきだと考えています。Local Coopに参画する企業の中には、事業活動を通じて自然資本を回復させ、それを投資家への評価(ソーシャルインパクト)につなげている事例も出始めています。」

特定の流域が維持されることが価値につながる飲食チェーンや、耕作放棄地の再生を通じて安定的な原料確保を目指す企業など、独自の基準で経済・自然・地域を回すモデルが、すでに芽吹き始めています。

なぜ林さんは、気候変動や人口減少を自分ごととして捉え、これほどまでに情熱を注いでいるのでしょうか。そう聞くと、こんな言葉が返ってきました。

林さん「気候変動や人口減少は外部要因でしかありません。自分がつくりたいものを想像し、形にすることを邪魔されたくない。それが根本にあります。今は『つくる』ということを奪われていて、今後ますますできなくなる可能性があると感じています。何かを想像してつくるという、人間固有の喜びが残り続ける世界をつくりたいんです。多様な他者と関わり、動いてみる。人間だけでなく動物や虫も共に在る。そんな場所が心地よいと感じるからこそ、この道を歩んでいます。」

最後に、林さんは国家という概念の未来をこう見据えます。

林さん「国家という概念は、次第に溶けていくでしょう。しかしすぐになくなるわけではありません。外交や国防といった役割は残りますが、私たちはそれだけに依存せず、オルタナティブ(代替の選択肢)をつくる必要があります。かつて人々は水や土地といった『コモンズ』を自分たちで管理していましたが、それを手放した結果、国家による強大な統治を受け入れてきました。

今、中央集権的なシステムだけでは個人の尊厳を守りきれないことが、明白になっています。自分たちの主権と生存のためのコモンズを取り戻すこと。水やエネルギー、食料を自律的に確保し、助け合えるネットワークを持つこと。こうした『安全保障の民主化』をコミュニティを越えてつなげていくことが、Local Coopを通じて実現したい世界です。」

三重県尾鷲市「みんなの森」から見える海。森と海の距離が近く、流域での循環の全体像を感覚としてつかみやすい

自治とは、単なる制度の議論ではなく、生き方の実践です。「いかに生き延びるか」が問われる今、自分たちの暮らしを自分たちで支えるという意識は、ますます切実さを帯びていくはずです。ローカルという小さな単位は、社会の未来を試す「実験場」でもあります。そこでの切実な実践の積み重ねが、世界を動かす大きなうねりへと変わっていく。林さんの言葉は、これまでの実践から生まれた揺るぎない確信に満ちていました。

 

林篤志
paramita 共同創業者、Next Commons Labファウンダー

自治体、企業、起業家など多様なセクターと協働し、新たな社会システムの構築を目指して活動。ポスト資本主義社会を具現化するための社会OS「Local Coop」、デジタルアートの保有を通じて気候変動問題の解決に取り組む「SINRA」、過疎地におけるデジタル関係人口を創出する「Nishikigoi NFT」など、多様なプロジェクトを展開中。