コミュニティ形成は目的ではなく手段
ランドスケープ・デザイナー 中津秀之さん

フージャースでは千葉市中央区で、ファミリー向けの「デュオヒルズ蘇我ザ・スカイ」とシニア向けの「デュオセーヌ千葉蘇我」の一体開発プロジェクトを行いました。
フージャースの「ソーシャルデベロッパー®へ」という理念のもと、掲げられたコンセプトは「永く暮らし続けられる街へ」。総戸数407戸の大規模開発でありながら、ファミリーとシニアが自然に共存する住環境を目指しました。その一環として、隣接する宮崎公園のリニューアルにも取り組んでいます。
今回は、マンションの外構空間デザイン、そして宮崎公園のリニューアルやワークショップにも携わっていただいた、ランドスケープ・デザイナーであり関東学院大学 建築・環境学部准教授の中津秀之さんに、ランドスケープに込めた思いや、多世代が暮らすまちづくりについてお話を伺いました。
人と地域をつなぐランドスケープ

中津先生は約40年前からマンション業界に関わり、大学での教育・研究と並行して、数多くの外部空間の設計に携わってきました。会社員時代には、マンション建設に反対する地域住民への説明会にも多く参加し、その経験から「マンションは地域に突然現れる大きな集落のような存在だ」と感じるようになったといいます。「周辺の住民は何十年もかけて人間関係を築いています。一方でマンションは、入居したその日から新しいコミュニティをつくらなければなりません」。だからこそランドスケープには、マンションの住民同士をつなぐだけではなく、マンションと地域をつなぐ役割も求められると話します。
子育て世代は学校や公園を通して地域との接点を持ちやすい一方、高齢者はマンションの内外ともに交流の機会が少なくなりがちです。そのため、中津先生は「マンション内の交流」と「地域との交流」の両方を戦略的に考えることが重要だと指摘します。
今回のプロジェクトに携わることになったのも、その考え方が背景にあったからです。「私たちは20年ほど公園でさまざまな活動を続ける中で、多世代交流をテーマに取り組んできました。今回の計画は、シニア向け住宅とファミリー向け住宅が同じ敷地にある計画で、私たちが長年取り組んできたテーマと重なると感じました」。
コミュニティづくりは目的ではなく手段

中津先生にお話を伺う中で特に印象的だったのが「コミュニティ」という言葉への向き合い方でした。まちづくりの場面では「コミュニティ形成」という言葉がよく使われます。しかし中津先生は、コミュニティをつくること自体を目的とは捉えていません。コミュニティを作ることは手段であり、大切なのはその先に何を実現したいのかだといいます。「このまちが好きになること、このまちから離れたくなくなること、このまちの面白さに気づくこと。そうしたことが本来の目的なんです。コミュニティづくりは、そのために必要な手段です」。

まちづくりには「目的と手段が何層にも重なっている」と中津先生。例えば、まちへの愛着や幸福感を高めることが大きな目的だとします。そのための手段としてコミュニティがあり、そのコミュニティを育むための手段として公園や広場などの空間があります。さらに、その空間を活用してもらうための手段としてワークショップやイベントが位置付けられます。「ある階層では手段だったものが、次の階層では目的になるんです」。ワークショップの目的は空間を使ってもらうことであり、空間の目的はコミュニティを育てること。そしてコミュニティの目的は、まちへの愛着や豊かな暮らしへとつながっていきます。
「ウェルビーイングという言葉がありますが、精神的・身体的な健康に加えて、私が特に重要だと思っているのは『社会的な健康』です。それをどう実現するかも大きな目的です」。
さらにその先には、人口流出や少子化、高齢化といった社会課題があります。そうした課題を乗り越えながら、人々が幸せに暮らし続けられる地域をつくることこそ、本質的な目標だと中津先生は話します。
人と人をつなぐ「自然」という存在

では、その多層的な関係を支えているものは何か。中津先生は「自然の力」だと語ります。ここでいう自然とは、樹木や芝生だけを指しているのではありません。木陰や風、鳥の声、遠くに見える景色なども含めた自然環境全体のことです。「自然の中で、みんなが同じ景色を見たり、同じ体験をしたりすることで、人と人との横のつながりが生まれていくんです」。目の前の木や芝生だけでなく、遠くの風景も含めた自然環境が、人と人をゆるやかにつなぐ媒介になります。ランドスケープは、そうした自然の力を活かしながら、人の心や行動に働きかける役割を担っているのです。
外部空間に欠かせない地面と木陰

中津先生が設計で重視しているのが「地面」と「木陰」です。
地面は、座りたくなるような地面であることが大切だといいます。地面がアスファルトやインターロッキング舗装だと、人はあまり座りたいと思いません。しかし芝生があると、シートを敷いてお弁当を食べたり、寝転んだり、自然と滞在したくなります。さらにわずかな起伏や斜面を設けるだけでも、人は自然に腰を下ろしたくなるのだそうです。
また木陰は、これから暑い夏が増えていく中で、屋外空間を使う人にとって欠かせない存在です。建築の庇や屋根とは違い、木陰は季節や時間によって変化します。「人間の首の骨格は地面を観察するように進化してきたので、頭上で葉っぱが揺れる気配や音を、足元を眺めて確認できるので、木陰は自然を感じる重要な素材なのです」と中津先生は話します。
こうしたことを考えた設計によって、人が自然に滞在し、交流や発見が生まれる環境をつくろうとしているのです。
ベンチではなく、自分で居場所を見つける体験を

中津先生は、「ベンチは公園に置いてはいけないものと思っている」と考えています。理由は、ベンチは「社会を分断するもの」になり得るからです。ベンチは「ここに座りなさい」という強いメッセージを人に感じさせます。さらに座れた人と座れなかった人を分け、座っている人に優越感を、座れなかった人には敗北感を与えます。満員電車の中と同じですね。一方で、芝生や段差、木陰などから自分で居場所を見つける場合は違います。自分で発見し、座ってもいいかと判断してその場所を獲得すると、人は達成感を得られます。そうして座った場所から見える景色や聞こえる音、感じる風など、通り過ぎるだけでは気づかなか「公園の応援団を増やすこと」と表現します。自分で座る場所を見つけ、発見や気づきを得る、そのきっかけとして芝生や緩やかな斜面があるのです。
ランドスケープが心を育てる

中津先生は、建築とランドスケープの違いについても語ってくれました。建築は雨風や暑さ寒さから人を守り、身体的なコンディションを整える役割を持っています。一方でランドスケープは、人の心や感情に働きかけるものだといいます。近年は、地域とのつながりや人との関係性といった「社会的な健康」にもランドスケープが大きく関わるようになってきました。もちろん建築とランドスケープを明確に分けられるわけではありません。建物の中と外がつながることで、人の心や地域とのつながりが育まれていく。ランドスケープには、人がその場所を好きになり、暮らし続けたくなるまちを育てる力がある。中津先生のお話からは、そんな思いが伝わってきました。
中津秀之(なかつ ひでゆき)
帯広畜産大学、筑波大学大学院を経て、ハーバード大学・デザイン系大学院・ランドスケープ学科修了。建設会社設計部勤務の後、有限会社サイトワークス・ランドスケープ研究所を主宰すると共に関東学院大学准教授。
ランドスケープ・アーキテクトとして、多くの建築家とともに多様な外部空間の設計を手掛ける一方で、子どもの遊び空間の調査研究を通し、自然環境を活かした「まちづくり」活動や団地再生など地域活性化の活動を展開。「グッドデザイン賞」、「公共の色彩賞」など、多数の賞を受賞。
千代田区まちづくり景観審議会委員や逗子市環境審議会委員など、公的委員職も多数。一般社団法人TOKYO PLAY理事。