土間のある暮らし

Skylight / PIXTA(ピクスタ)

土間のある家を、古民家や住宅雑誌などで見たことがあっても、実際に暮らしたことがある人は少ないと思います。
住宅の土間のルーツは、古代の竪穴式住居で床全体が土で、一部に草などを敷いて暮らしていたころにあると言われています。江戸時代には、庶民の家の土間に笠や蓑がかけてあり、炊事をするための水桶やかまどがある光景は、テレビの時代劇でもよく見られます。こう考えると、歴史的には、住宅に土間がある時代が長く続いていたわけです。しかし、近代になり生活様式が変わり、炊事はかまどではなくガス器具で行われるようになったころから、土間は住宅から姿を消し始め、現代では土間のある家はすっかり珍しい存在になりました。今回は土間のある暮らしについて考えてみたいと思います。

古民家などで見られるように、庶民の住宅の土間は、耕作や漁の道具の置き場だったり、ちょっとした作業をする場所でもありました。また、かまどで食べ物の煮炊きが行われる場所でもあり、訪ねてきた人が小上がりに腰かけて会話をする場所でもありました。土間の床は、土のままか、三和土(たたき)と言われる、灰とにがりを混ぜた土で固められ、濡れたり汚れたりしてもよい場所でした。家の中でありながら、屋外のように利用できる土間は、室内に持ち込むことが躊躇されるものを扱う場所として便利に利用されていました。

このように、土間は、玄関、道具の置き場、作業場、炊事場、訪ねてきた人をもてなす場、と複数の役割を持ち、その時々で用途を変えられるマルチな空間でした。生活習慣として家の中で靴を脱ぐ日本人にとって、家の中でも土足のまま行動できる土間は、生活に不可欠な空間だったと思います。また、外と内とが緩やかに交わる土間は、光や風といった屋外の環境や過ごし方を室内に取り入れることができ、身体的にも気持ちの良い空間です。現代では、セキュリティーやプライバシーの観点から、外と内とを断絶的に分ける設計が主流となり、外と内とをつなぐ空間は玄関の靴を脱ぐスペースだけになってしました。しかし、外と内とを行き来する人の暮らしは、今も昔も変わりはありませんから、現代においても土間のある暮らしは便利なはずです。

左上から蕎麦喰亭 / PIXTA(ピクスタ)、じろきち / PIXTA(ピクスタ)、Bilbo / PIXTA(ピクスタ)、2K / PIXTA(ピクスタ)

最近では、注文住宅やリノベーション住宅などで、いろいろな土間のある家を見ることができます。利用の目的としては、次のようなケースがあります。

・自転車やキャンプ、釣り、サーフィンなど趣味のアウトドアの道具を置いておく、または飾る空間としての土間
・DIYや陶芸、生け花などの趣味を楽しむ作業場としての土間
・観葉植物や花を並べるなど家の中の庭としての土間
・椅子やテーブルを置くなど玄関先のちょっとした茶の間としての土間
・薪ストーブやソファーを置くなど玄関先のリビングとしての土間
・流し台や洗濯機を置くなど家事スペースとしての土間

土間の位置や大きさについては、①玄関を大きめにしているケース、②それを家の奥へ大きく広げているケース、③玄関からバルコニーまで通り抜けられる通り土間のようなケース、④外部に面して長く広く縁側のように設けているケース、などがあります。利用目的も土間の場所もオーナーのライフスタイルとセンスを感じます。

床の仕上げについては、昔のように土や三和土(たたき)で仕上げられるケースは少ないようですが、コンクリートやタイルなど、土足のまま使えて、汚れたりや濡れたりすることが気にならない仕上げになっています。

コロナ禍において、三密を避けて、自転車やキャンプなどのアウトドアを趣味にする人が増えているようです。おうち時間を楽しむために、ガーデニングやDIY、絵画、生き物の飼育などを始めたという話をよく聞きます。多少の汚れは気にせずに自由に使える土間が家にあれば、趣味を楽しむ暮らしにもぴったりではないでしょうか。また、家に帰ったらすぐに手を洗うことや、花粉やウイルスを室内に持ち込まないように、脱いだコートは玄関先にかけておくようにした人も以前より増えていると思います。土間で手が洗えて、コートが掛けられれば、家の前室として使うこともできると思います。

昔の土間が持つ機能や役割は、今あらためて活かせる時なのかもしれません。限られた専有面積の中で、土間のある家を設計するためには、室内のどこかをそのぶん狭くしなければならない実情もあります。しかし、土間があることによる暮らしの便利さや豊かさは、面積以上かもしれません。リビングや寝室などのように、あらかじめ機能が決められている空間とは違い、自由に使える余白の空間としての土間は、ライフスタイルや趣味嗜好が多様化している現代にこそマッチする空間だと思います。一般的な「3LDK+土間」、「4LDK+土間」という考え方だけでなく、「3D(土間)DK」や「4LD(土間)K」といった考え方もあると思います。

これからの土間は、広さや素材、空調、室内との段差、土間から室内がどこまで見えてもいいのか、など現代の暮らしにあわせていろいろなパターンが考えられそうです。フージャースでは、ニューノーマルな暮らしにマッチした土間のある家を考えてみたいと思います。

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