モバイルハウスという新しい家のかたちと暮らし方

@YADOKARI

みなさんは「モバイルハウス」という言葉を、聞いたことがあるでしょうか。動く家という意味ですが、車を改造してその中で暮らす家のことをいいます。日本ではこの1年ぐらい、その動きが進んでいます。その背景には、これらのムーブメントの原動力がありそうです。
十年ほど前アメリカの青年が、車の後ろに荷台用のシャーシを付けて、その上に小さなセルフビルドの家を積んでアメリカ全土を旅しました。その姿がテレビでも放映され話題になりました。この青年の暮らし方から「タイニーハウス」といわれる、小さな家に住むという暮らし方が始まります。特にリーマンショックと呼ばれる経済危機は、その動きを後押ししました。大きな家をもつことが憧れだった時代から、家のローンに追われるより、小さな家でも暮らしにかける時間をもっと楽しみたい、という考え方が始まるのです。ちょうどその頃、都市でも子ども達が家を出ていき、大きな家に夫婦二人、または一人で暮らす老人も増えていきました。彼らは家のガレージを改修して独立した家にしたり、庭に小さな家を建てて、そちらに住み替えて、母屋を民泊で貸したり、賃貸で人に貸すという暮らし方を始めるのです。

小さな暮らし

母屋を貸して不動産収入をあげるということはモチベーションのひとつになりましたが、小さな家に住むことは、それ以上に人々の意識に多くの変化をもたらします。家が小さくなることで全ての持ち物が把握でき、すべてが自分の管理下になるようになります。特にセルフビルドでつくった家であれば、メンテナンスも修理も自分で出来ます。また小さく住むためには、持ち物を厳選しなくてはいけません。本当に自分に必要なものは何かを、自然に考えざるを得なくなります。また家を小さくすれば、家にかけるお金も少なくなりますから、収入を落としてもよくなります。嫌な仕事をするのでなく、収入に左右されることなく自分のしたい仕事を選ぶことも出来るようになるのです。他にも家の中が狭い分、外部空間をうまく使う必要があります。自ずと自然との距離が近づきますし、温度や湿度などの天気にも敏感になります。ゴミもなるべく出さないような暮らしになるでしょう。かつて、大きいことはいいことだというCMがありましたが、全くその逆です。小さな暮らしをすることは、今まで持っていた価値観とは全く逆の価値観への変化といえるのです。

日本でのムーブメント

日本でもこうした小さな家の動きが6年ほど前に始まりました。その動きを牽引したのは、YADOKARIのさわだいっせいさんとウエスギセイタさんの2人。東日本大震災のあと、彼らの中に芽生えた、もののはかなさ。家をもつために苦労してきたものが、自然の力で一瞬にして無くなっていく姿を見て、家を所有する意味を考えたそうです。今の暮らしをもっと楽しむこと。そのために「家とは、暮らしとは、そして働き方とは」を考えるようになったのです。
YADOKARIというチームを結成後、世界中のモバイルハウスの記事を毎日2本ずつアップする彼らの活動は、徐々に日本中に知れ渡っていきます。さらに活動は広がり、小さな家をみんなで一緒にセルフビルドで作る「小屋部」という活動が生まれます。その家づくりのプロセスで育まれるチームの一体感が、大きなコミュニティとなっていったそうです。彼らは小さな家を作ることで、現代の生き方、暮らし方、働き方を今も尚問い続け、その分身を日本中に広げています。

@YADOKARI
YADOKARIのさわだいっせいさん(ニット帽左)、ウエスギさん(ニット帽右)。日本橋でタイニーハウスをつくった際の一枚。

動く家

モバイルハウスは、こうした小さな家の活動の中で芽生えていきました。特に日本では軽トラックの荷台の上に、木造の小さな家を載せてつくる方法が盛んになります。モバイルハウスでの生活は最小限の荷物で暮らし、トイレ、シャワー、キッチンは外の機能に頼ります。このあたりが、車でありながらも家として完結しているキャンピングカーとは違います。道の駅や駐車場、誰かの家に接続する必要があります。風呂も、銭湯や温泉などを使う場合も多くあるでしょう。しかし、これだけ街の中に暮らすための機能が充実しているのなら、そうしたものを使いながら車で過ごすというのも悪くありません。先の小さな暮らしから、また一段と進化した暮らし方とも言えそうです。
この動く家は、「家」についての我々の意識を、さらに変化させてくれます。どこでも仕事が出来るようになり、仕事のために移動する時間が少なくなると、暮らしのための移動に費やせる時間と、暮らす場所の選択肢が生まれます。海が好きな人は海の近くで、山の好きな人は山の近くで暮らせます。定住という暮らし方から、遊牧民のように移動を前提とした暮らし方に変化すると、それに合わせた働き方も可能になります。移動しているとはいえ、どこかに停泊もするでしょうから、そこにはいつでも立ち寄れるコミュニティが必要です。ひとつのコミュニティに属するのでなく、いくつかのコミュニティを選択するようになるかもしれません。家族も少なくなり夫婦だけで、または一人で旅するように暮らし、旅するように仕事をしていく人々が既に現れているのです。家族という社会の最小単位が「家」だとするのならば、そうした「家」という概念は変わりつつあるのかもしれません。住む場所という「家」の固定概念がうすれつつある今、モバイルハウスは、私たちに新たな暮らし方や働き方を創造させてくれるかもしれません。そして、これからの幸せ像を考えるヒントの一つになりそうです。
みなさんのご意見をお寄せください。

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YADOKARIが取り組んだタイニーハウスを利用したホテルTinys Yokohama Hinodecho。連日多くの旅行客がタイニーハウスを体験したいと訪れる。

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