安心して暮らすためのコミュニティ

【連載】コミュニティについて vol.01

千里ニュータウンにある「千里青山台団地」での住民祭の様子。
出展:株式会社良品計画 みんなで考える住まいのかたちHPより

非常時の支え合いについて、多くの人がその必要性を感じているでしょう。東日本大震災のあと、日本中で「つながる」というキーワードが出たことを記憶している人は多いでしょう。といっても非常時は、そうめったにくるものではありません。日頃の近隣との関係づくりが大事になってきます。
少し歴史を振り返ってみると、高度経済成長の時代に、近隣とのつながりが強かった地域の暮らしを捨てて、都会に多くの人が流出していきました。自分の夢や希望を叶えるために都会へ出て、自分の目標達成のために邁進した時期が長く続いたのです。特に男性は、家と会社の往復で、仕事の仲間との繋がりを優先し、近隣とのつながりについては遠のいていたといえるでしょう。また住まいについては、大型の団地やマンションで暮らし、子どもを中心としたつながりはある程度あるものの、地域の活動等には関心がなかった時代が続きました。特に、戸建てを基本とした町内会の活動は、その担い手を失ったようにも見えます。お祭りや消防団など町内の活動は、地域に根づく商店街の人や、何代もその街に住む人たちによって支えられてきているのが実情です。しかし、そうした人たちも徐々に少なくなり、地元の商店街は、大型のショッピングモールやスーパーに変わっていきます。こうした街の変化が、さらに地域のつながりを薄くしてきました。
しかし2011年の東日本大震災は、地域へのつながりを喚起したともいえます。人口減少や経済の縮退など、今までの経済至上主義の価値観からの変化も、この動きを後押しします。コミュニティについても同様に、もっと日常の暮らしへの関心が高まるきっかけになったといえるでしょう。拡大から安定へ、そのことは大きなことから小さなことへ、合理的なことから丁寧なことへ、豪華なことから簡素なことへと、様々なことの価値観が見直され始めていきました。地域のコミュニティが大切だということは、震災ということだけでなく、こうした社会の変化がもたらしたことだともいえます。
そして、もうひとつの大きな要因は、人口減少のみならず高齢化と少子化といったことに起因する世帯人数の縮小です。2009年には一人暮らしの世帯が30%を超えました。それは今まで家族で助け合ってきたことを、地域内で解決していかなければならないということを意味します。他にも働き方の変化なども起きました。しかし、こうしてコミュニティへの意識は高まっていくものの、そのきっかけがうまく作れないということがあったように思います。

そこで今回は2つの事例を紹介します。どちらの事例も、負担にならないような頻度の少ない活動で、また楽しみながら、大人も子どもも参加できるものです。例えば防災訓練は災害時の知識を手に入れるものですが、それを楽しくイベントにすることで、それをきっかけに人の繋がりが生まれていきます。こうしたある意味ハードルの低い地域活動からはじめながら、徐々に地域の他の活動にも広がっていくといいでしょう。

事例1: NPO法人プラス・アーツ 訓練じゃない防災体験プログラム「イザ!カエルキャラバン!」

ゲーム感覚で学べるので、子どもから大人まで笑顔があふれます。
出展:NPO法人プラス・アーツ イザ!カエルキャラバン!HPより

プラス・アーツの活動は、阪神・淡路大震災のあと、多くの人に防災の知識を持ってもらおうと2005年に始まります。子どもでも楽しめるようにゲームやクイズを取り入れての防災体験プログラム「イザ!カエルキャラバン!」を実施し、今まで全国で500以上の都市や街で開催されてきました。近年は、国内だけでなく海外でもこのイベントが行われるようになっています。各地で実施する際、初めはプラス・アーツのサポートを受けながら実施するのですが、2年目以降は、街の人が主体となって行います。この活動を通して、地域の人々のつながりがうまれていきます。
プラス・アーツの防災活動の特徴は、誰もが楽しみながら参加できることです。日頃顔を合わせなかった人たちが、このことをきっかけに知り合ったり、また毎年の訓練を盛り上げるために定期的な会合をもつようになったりと、この活動を通して、コミュニティの核がつくられているようです。

イザ!カエルキャラバン!:http://kaeru-caravan.jp/whats

事例2: 株式会社良品計画 住人祭(隣人祭とも呼ばれます)

ロングテーブルに各自が食事を持ち寄って楽しむ様子。
出展:株式会社良品計画 みんなで考える住まいのかたちHPより

住人祭とは、1999年にフランス・パリで始まります。ヨーロッパを襲った夏の大熱波で、多くの老人や子どもが暑さで具合が悪くなり亡くなったりしました。1人で住む高齢者が亡くなったことに気づかなかったことから、その老人と同じマンションに住んでいた青年が、「せめて普段から挨拶ぐらいできる関係があれば、そうした事態にはならなかったのではないか」と考え、マンション内の人に呼びかけ、住人全員で持ち寄りの食事会を中庭で行ったことが始まりとなりました。
飲んで食べて同じ時間を過ごすこと。普段話したことのない人と話すことで、また全員の顔を見ることで、普段からあいさつができる関係性になっていくのです。こうしてあいさつができる関係をもつことで、非常時に声を掛け合うことが出来るようになり、近隣の様子に意識を向けることができるようになるのです。
この活動の特徴は、ただ食事をするというシンプルな行動にフォーカスしていることでしょう。その際、できるだけ美しく食卓を演出することも大事なポイントです。

住人祭:https://house.muji.com/life/lafetedesvoisins/

以上2つの事例でしたが、このほかにも災害をきっかけとした活動からうまれるコミュニティはあるでしょう。2つの事例に共通することは、どれも無理のない頻度で行われていることです。そして、コミュニティ作りのきっかけとなるような活動であることといえます。これらの活動によって生まれるコミュニティを「安心して暮らすためのコミュニティ」と名付けました。
みなさんはどのように感じますか。ご意見をお寄せください。次回は「居心地よく暮らすためのコミュニティ」について考えてみます。みなさんのご意見をお寄せください。

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