こども食堂

―助け合いが当たり前の社会に
取材:近藤博子さん、大田区こども食堂にて

愛情いっぱいの食事に、思わず笑みがこぼれる
photo: Miki Chisyaki
地域のボランティアの方々も応援しています。

地域の人が学び合える場所を

近藤さんは歯科衛生士として長く仕事をしてきました。いつも感じていたことは、歯の問題を通してきちんとした食事の知識や教育が必要な事。そんな時に知人から「オーガニック野菜の配達サービスを、土日だけ手伝ってもらえないか?」との話を受けて、気まぐれ八百屋だんだんをはじめます。だんだんという配達の拠点ができたことから、平日の空いた時間でその場所を利用して人が集まる場所をつくります。子どもの宿題をみるワンコインの寺子屋「みちくさ寺子屋」や「私も哲学」という勉強会など、子どもや大人が学べる場所をつくりはじめます。その構想の基本にあるのは「地域の人が、または隣近所の人が普通に声をかけあえる社会。困ったことがあったらお互いが助け合うということ」、そのことを根底に考えているとのことです。

こども食堂という構想

そんな時に地域の小学校の先生から、家庭の事情で、親御さんが食事を作れない日は給食以外をバナナ一本で過ごす子どもがいるという話を聞きます。その背景には母子家庭だったり、帰りが遅い共働き夫婦だったり様々なことがあるのでしょうが、それにしてもその現実に驚かされたと言います。その後約2年間、そのことをどうするか考えて「こども食堂」の構想にたどり着きます。

学校の掲示板に貼るだけの告知、しかし人から人へ伝わって、今では1日に50人ぐらいの子供が訪れます。ここにくる子供達の間にも徐々にコミュニティーが生まれていきます。この場所は25人ほどが座れるスペース、子ども達は順番がくるまで、だんだんの中で待っているか、玄関先で順番を待ちます。食事が終わってからは、遊んだり話したりと、みんなで過ごします。一人で食事を取らなければいけない子ども達にとって、いつでも食事ができて友達がいる場所があるということは、何よりの安心感につながっているようです。

近藤さんは特に子どもたちの問題や家庭の事情などを詮索はしないといいます。そのことも子ども達にとって安心な要因のひとつでしょう。この日、ここに幼いころ通っていたというボランティアの高校生に聞いてみると「ここには自分の役割と居場所があると」いいます。自分が自分のままでいいという場所。こども食堂はそうした自分を見つけられる場所なのかもしれません。

全国にひろがるこども食堂の活動

この活動は全国に広がっています。このことについて、近藤さんは「自分の出来る範囲で行うことが大事」だと言います。今では助成金や寄付などもあり、それを使って運営していますが、元々そうした資金があったわけではありません。そもそもそうしたお金をあてにするのでなく、あくまでも自分の出来る範囲で行うことが大事だと。それは地域にはこうした場所が必要ですし、地域ごとにこうした場所をつくってほしいという近藤さんの想いからきています。

活動を始めてすでに6年、小学生だった子どもが今では高校生になっている子もいます。その子ども達が、今はボランティアに来てくれます。ここで育った子ども達が大人になって、そして地域のことを考えるような大人になってくれたらと、期待しています。近藤さんは「こども食堂」と名付けたものの、大人も、親子で来るのも大歓迎と。仕事と家事に追われているお母さんが、週に一日だけでも料理から解放されてのんびり子どもと過ごせる時間をもてたら、また次の日のエネルギーになってくれると考えています。

話の中で、最近の親について触れていたことが印象的でした。子どもと一緒に食事に来ても、感謝の気持ちも表現せずに帰って行く親御さんがいるということも、気になっているそうです。子どもは大人の態度を見ているので、そういう親が子どもをダメにしていくのだと言うのです。近藤さんはお礼を言ってもらいたいのではなく、ボランティアというみんなの好意でできている活動に対して、敬意を表せない親の姿は子どもたちにとっての鏡となって、社会の中であたりまえのことができない子どもにしてしまうという危惧なのです。

近所のおばちゃんや若い女性たち
小学生のころからみちくさ寺子屋に通い、その後こども食堂に参加するように。高校3年生の彼の夢は、「こども食堂のような小さな社会を世の中に増やすこと」(写真右)
食後はお母さんと一緒にこども食堂にあるゲームでくつろぐ。こども食堂のおかげで、つかの間の親子の時間ができているとか。

助け合いが当たり前の社会に

近くの人に手を差し伸べることができる社会。近藤さんは、ただただそれだけを願って地道な活動を続けているのです。この日も多くの子ども達が来ていました。また何人もの大人のボランティア、そしてここで育った子どもたちも手伝っていました。みんな本当に楽しそうな時間を過ごしていました。こうした活動が様々な場所で根付いていくことを私たちも願ってやみません。

みなさんはこども食堂の活動。どのように思いますか。ご意見お寄せください。

近藤博子(こんどうひろこ)
島根県安来市出身。幼少時代は自然の中で過ごす。夫と2人の子どもの4人家族。長女は24歳、次女は22歳。長年歯科衛生士として働き、知人の手伝いから八百屋を始める。現在は歯科衛生士、無農薬野菜と自然食品のお店を続けながら毎週木曜日にこども食堂を開いている。

気まぐれ八百屋だんだん
最寄り駅: 蓮沼
住所: 東京都大田区東矢口1-17-9
電話番号: 090-8941-3458
営業時間: 火曜~金曜13時~19時、土曜・日曜10時~18時
定休日: 月曜
Webサイト: https://profile.ameba.jp/ameba/kimagureyaoyadandan