高齢者と若者の交流をつくる


長谷川大さん、NPO法人「街ing本郷」にて

NPO法人 街ing本郷を通じて出会った2人。若者は文京区にある大学の学生で、この日も取材ぎりぎりまで研究に打ち込んでいたそうだ。
photo: Miki Chishaki

代表の長谷川さんはこの街に3代続く、創業98年の魚屋さんです。かつては、本郷の旅館などに卸していて大繁盛していたといいます。その後時代も代わり、一般の人向けに小売をするようになります。一度はスーパーに勤めたこともあるそうですが、「地元に戻って顔の見える商売をしたい」と思い、家業の魚屋に戻ります。そして、文京区本郷地区の商店街が抱えている、地域コミュニティの活動の担い手不足や、新住民と地域の人のネットワークの欠如という課題に取り組む活動を、「NPO法人 街ing本郷(まっちんぐほんごう)」を設立して、取り組み始めました。

「NPO法人 街ing本郷」の活動の中に「ひとつ屋根の下プロジェクト」と「本郷書生生活」という高齢者と若者をつなげる試みがあります。その試行錯誤から多くの構想が生まれつつあります。
はじまりは、高齢者の家の空いている部屋を学生に安く提供しようと考えたことから始まります。たしかに高齢化が進む日本で、しかも古い街のこと多くの高齢者が一人で暮らしている今、そこに若い学生が下宿をしているとなにかと安心です。このプロジェクトを「ひとつ屋根の下プロジェクト」と名付けました。 しかし、プロジェクトをスタートさせてみると、学生からの問い合わせは多いものの、空室を提供してくれる大家さんの希望がなかなか集まりません。大家さんの方はお金が必要なわけではなく、知らない学生を受け入れる勇気を持てる人はなかなか少なかったようです。
そこで次に目を付けたのが古い木賃アパートです。老朽化が進み、改修してまで新しい人に貸すことを考えていない大家さんに、新たな設備投資はほとんどせず、そのままの状態で、安い賃料で学生に貸すということを提案したそうです。学生の入居にあたっては長谷川さんが一人ひとりと面接をし、入居条件として高齢者との定期的なイベントに参加するということを、加えました。ポイントは、初めからそうした条件を明確に打ち出していること。そのことで入居したい学生は、高齢者との接点を望んでやってきます。単純に興味のある人もいますし、研究として取り組む学生もいるそうです。この方法は大成功で、「本郷書生生活」と名付けられました。定期的な交流を積み重ねることで親近感もわき、お互いのことを理解できるようになれば、自然と交流が生まれます。定期的なイベントで会う高齢者の方はこの街の人。外を歩いていれば、偶然会うこともあります。なにより、この活動のリーダーの長谷川さんをはじめ理事の人は、この街でお店を持つ人。店の前を通れば自然と街の人も、書生の学生も声をかけるようになっていきました。

人とつながることで、街とつながる

長谷川さんの構想は、活動を進めながら、どんどんリアリティを増していくようです。書生さんが街とつながっていき、卒業してこの街を離れても、仕事帰りや近くに来た時に寄ってくれるそうです。きっといつの日か、またこの街に戻って住む人がでるだろと、長谷川さんは確信しています。
街との関係が希薄な現代の生活の中で、高齢者との接点をつくるという企画からスタートしたこのプロジェクトは、未来の街の活性化へともつながっていきます。こうした背景には、もうひとつ仕掛けがあります。定期的に行われる食事会や交流会とは別に、隔週一回「NPO法人 街ing本郷」の定例会議が開催されています。この定例会議には、書生や先述の高齢者をはじめとして街の人が参加します。そして、この場には様々な企画が持ち込まれます。文京区本郷地区の町内会を超えて、近くの町内会、商店街の困りごとを解決していきます。人手不足の商店街のイベント企画や会計報告なども手伝います。こうした活動をしながら、高齢者と若者という年齢の差を超えて、一緒に活動をする仲間となっていくのです。もちろん食事会などのイベントにも、こうしたつながりが役立つのはもちろんです。今では普段から重い荷物を運ぶのを手伝ったり、お茶を飲んだりという日常の暮らしの中での接点も、生まれているそうです。自然体でのつながりが、長谷川さんたちの活動の魅力なのかもしれません。
長谷川さんたちの日々の活動が領域を超えて、そして時間を超えて、人と街とつながっていくのでしょう。最近では新しくできたマンションの住人にも活動に加わっている人がいるとか。若者と高齢者だけでなく、新住人と地域の人のハブにもなりつつあるのです。

高齢者と若者との助け合い

長谷川さんへの取材は、多世代で住むことの可能性を考えるために色々な方に取材をしていたことがきっかけになりました。理想として、高齢者と若者が一緒に住んだら、様々な社会的課題が解決できそうだと思うものの、そのことを考えすぎて、どうしたらそのことが実現できるか想像もつきませんでした。高齢者と若者という括りでなく、お互いに尊敬しあい、なにかを一緒にやる活動を粘り強く持つことで、いざというときの助け合いができるのかもしれませんし、はじめに理念をかかげ、そこを理解する人で活動を始めるというのもポイントなのかもしれません。どうしても仕組みで解決しようと考えがちなものですが、仕組みではなく人で、そして時間で解決していく、そんな姿勢を学ばせてもらった取材でした。

みなさんはどのように思いますか。ご意見をお寄せください。

NPO法人 街ing本郷(まっちんぐほんごう)
所在地:東京都文京区本郷4-36-5
Webサイト: http://m-hongo.com/

創業98年、魚よし3代目の長谷川さん。
書生たちが住む「みのる荘」。大学まで自転車で数分の立地で、夜遅くまで研究に取り組む。
この春に入居したばかりの彼女は、先日地域のお祭りで地域デビューを果たした。地域でしたいことを早く見つけたいと楽しそうに話す。
隔週の定例会議。年齢の垣根を越えて、和やかな雰囲気で話し合いは進む。

長谷川 大(はせがわだい)

大学卒業後、2年間の会社勤務を経て、家業の鮮魚店を継ぎ、3代目となる。その傍ら商店会、町会活動に参加し、街に新たな仕組みづくりが必要と感じ、地域に有志を募り、「みんな(街・人)つないで、笑顔にする」をテーマに2010年12月に街づくりNPO法人 街ing本郷(まっちんぐほんごう)を設立。代表理事。