女性が社会をイノベーティブにしていく

非営利型株式会社Polaris コワーキングスペースcocociにて

創業時代表の市川さん(左)と現代表の大槻さん(右)。和やかにインタビューは始まりました。
photo: Tomizawa Susumu

女性の多様なはたらき方と暮らし方を考える組織「Polaris」。2010年12月ビジネスプランコンペで採択されたことから始まります。翌年は東日本大震災が起き、社会ではたらくことと暮らすことが大きなテーマになっていきます。そんなタイミングで2012年2月に非営利型株式会社Polarisとして起業します。今回取材したのは創業時代表の市川望美さん、現代表の大槻昌美さん、そして取締役の野澤恵美さんの3人です。

Polarisの事業の柱は、3つの部門から成り立っています。

1. ソーシャルデザイン事業部(はたらき方の研究、講演、コンサル等)

2. ロコワーク事業部(くらしのくうき:子育て世代が知りたい引越にまつわる地域情報の収集・発信、お引っ越し下見サービス等)

3. ワークデザイン事業部(セタガヤ庶務部や企業との協業等)

今はこのように分類されていますが、当初からこのように明確に作られていたわけではありません。

主婦ができる普通のことにもっと価値を見出したい(ロコワーク事業)

Polaris設立前、市川さんと大槻さんは世田谷の子育てひろばや、コミュニティカフェを運営するNPOに参加していました。しかし子育て支援というより、もっと正面からはたらき方を考えてみたいと思い、まず子どもをもつ女性や主婦の人たちのためのコワーキングスペースを作ります。もっとユニバーサルなはたらき方を探したい。誰でもできるような仕事に、どんな価値を作り出していけるか。普通のことを普通でないものとして、どう想像(創造?)できるかを考えてみたかったのだそうです。
当初は「セタガヤ庶務部」というサービス名で、簡単な宛名書きや名刺のデータ整理など、本当に誰でも出来るような仕事をしていたそうですが、もっと主婦の人たちの知見をいかした仕事はないかとロコワーク事業というサービスを考えます。世田谷に引っ越したい人に対して、子育て世代が知りたい地元の情報を提供するサービス。さらに、空き室に風を通して見回る空き室巡回サービスなど。こうした活動がきっかけで、デベロッパーの分譲住宅の地域情報コンシェルジュとして、街の案内をするサービスを開始します。これが大きく発展していきます。名前は「くらしのくうき」。ロコとはハワイ語で「愛着のある地元」という意味もあるそうです。自分たちの住む街を愛する街にしていきたいという思いとも重なります。
世田谷を起点に始めますが、他地域へも波及。開始から3年間で首都圏および関西で50以上のプロジェクトをこなしています。地域の主婦がその街の良さを発見し、地図に落とし込み説明をするという、主婦だからこそ、住んでいるからこそ出来るサービスなのです。
1つのプロジェクトに10人前後のチームをつくり、1日2時間ぐらいの勤務体制でシフトを組むそうです。初めて参加する主婦の人も「そんなことでお金をもらっていいのかしら?」と思うそうですが、ユーザーの喜ぶ姿を見て、そこに新たな価値を見出すのだそうです。このサービスに参加した人は200人ほど、地域を超えて継続的に参加している人も多いようです。

インタビューは野澤さんの5か月のお子さんも一緒に。等身大で自然体に働くというのは、こんな風景から始まるのだと思います。

企業との協業を通して(ワークデザイン事業)

もうひとつの大きな事業の柱が、企業とのコラボレーションによるワークシェアです。こんなことをしたい、あんなことをしたいという企業と一緒に企画を考え、参加していく仕組みです。中にはそうした企業とプロジェクトを進めるうちに、その会社の社員になるケースもあるといいます。仕事を一緒に考えることで、あたらしいプロジェクトを作り出し、そこにコミットしていく。時間の制約のある主婦の人たちが、その時間の中で最大限価値を創造する仕組みを考え出すのです。プロセスを共有することで、企業との関係も時間単位のパートとは違う関係を生み出します。同時にPolarisはそうした活動をサポートするためのプラットフォームとして、内外の適切な人材をマッチングすることも可能になってきました。ゴールを決めて仕事をしなければいけないという慣習から、もっと自由に気軽にできることを考えることに、大きな創造性が生まれるのかもしれません。

学校の朝テストの採点業務(ワークデザイン事業)

この仕事は学校で行う朝テストの採点を行い、夕方の補講に活かすという仕組みです。この仕事は、学校の授業がある時期にだけあります。夏休み、冬休み、春休みは、仕事はありません。子どもを持つ親にとっても子どもが休みの時はとかく忙しいもの。こうした発注側も働く側にも同じようなニーズを満たしているところがユニークなサービスです。空き室巡回サービスでも同じように、雨の日は巡回しても窓を開けられないので休みという、雨の日は子どもを連れてはたらきにくいという、お互いのニーズが一致しているところが、ともに面白いと言えるでしょう。

co-baCHOFU(ワークデザイン事業)

ここは調布のコワーキングスペースです。以前は、オーナーである地元の建設会社から場の運営業務を受託していたが、現在は、事業譲渡を受け、自ら運営者として、そしてその地域のフリーランスや起業家の活動を支援していく場所へとなっています。はたらき方で街はおもしろくなるというPolarisが考えてきたことを、地域ごとに具現化していくための見本となるモデルケースになっているようです。

はたらき方そのものを考える(ソーシャルデザイン事業)

創業時代表の市川さんは、これからのはたらき方について講演をしたり企業のコンサルテーションをしたりと、Polarisを通して社会への問いかけをしています。
問いかけの一つの方法にライフストーリーがあります。ライフストーリーとは、インタビューによって、個人の経験(人生・生涯・生活・生き方等)が語られ、一つのまとまりをもった物語として再構築されることを言います。今、人々の中にライフストーリーを作ること、そのことが大事だと言います。ライフストーリーは、時代の慣習や価値観によって規定されやすいものだそうです。しかし今は画一的なストーリーを離れて、こういう物語があるのだということを語り合って行く時代だともいいます。語れなかった人たちが語り始める時代。ビックストーリーよりも小さな様々なストーリーを認め合う時代なのだと言います。

多様なリーダーシップ

最後に組織のリーダーシップについて雁の先頭の話をしてくれました。雁の海をわたるリーダーは、一番弱い雁が先頭を飛ぶのだそうです。そうでないと全員が渡れないからです。Polarisの組織でも、このことを強く意識しているとのことです。男性型社会で強いリーダーの時代から、全員が安心して飛べる社会を作ろうとしている、Polarisの活動。さらにどんな仕事にもそこに新たな価値を見出していこうという姿勢。今の社会に忘れがちな視点ではないでしょうか。そしてイノベーションと言われるような分野にこそ、大上段に未来を語らないこうした肩の力を抜いた主婦の人たちの目線やアプローチが、大きな力になるかもしれません。

Polarisでは毎月一度座談会を開催しているそうです。興味のあるかた方は一度のぞいて見てはいかがでしょう。そして企業の方は一度訪問してみるのもよいかもしれません。様々な可能性を持つPolaris。まだ道半ばということですが、今後の展開が楽しみです。皆さんはどのように感じましたか。

左: 野澤恵美さん 中央: 大槻昌美さん 右: 市川望美さん

大槻昌美(おおつき まさみ)
代表取締役/Chief Community Officer
メンバーシップ型起業家。自分主語の起業は全然ピンと来ないけど、仲間と一緒にゼロから形をつくっていく「チーム起業」ならどこまでも頑張れる。現場対応力、馬力のある2代目代表。

市川望美(いちかわ のぞみ)
取締役ファウンダー/Chief Story Officer
ビジョン重視、インパクト重視のゼロイチ起業家タイプ。民間企業、個人事業、NPO、合同会社、非営利型株式会社と、多様な器を経験。ミッション、ビジョンを組織に浸透する役割、社会へのストーリー発信を担う。

野澤恵美(のざわ さとみ)
取締役/Design Executive Officer
自由を愛するフリーランス派。手に職を持ち、その時々にあわせてはたらき方を創る。やりたい人を応援したい、こんなやり方もあるよ、こんな方法もあるよと組織を導くファシリテーター役を担う。

非営利型株式会社Polaris HP | http://polaris-npc.com/