緑とともに働き暮らす賃貸マンション「リーフコートプラス」

撮影:篠澤建築写真事務所

欲しかった暮らしラボでは、緑と暮らしの研究を続けています。
今までに、専門家への取材、欲しかった暮らしラボでのアンケート、座談会を行い、緑と暮らす特徴的な間取りも考えました。
今回からは、緑にこだわった完成物件の担当者や建築家にお話を伺っていきます。

1回目の取材は、幡ヶ谷駅より徒歩4分にある総戸数80戸の「リーフコートプラス」です。
この物件は、株式会社荒井商店が手掛ける「バイオフィリックデザイン」を取り入れた賃貸マンションで、エントランスのドアが開くと、圧倒的な緑の中庭が視界に入ってきます。
どういう経緯でこのような緑が多い物件を作ろうと思ったのか、バイオフィリックデザインの効果はあるのか、管理や住人たちの評価などをお伺いしたく、物件企画を行われた荒井商店の岩尾勇太さんに、取材をお受けいただきました。

 

マンスリーマンションからのリニューアル

撮影:篠澤建築写真事務所

この物件は、元々荒井商店が保有するマンスリーマンションで、新国立劇場が近いことから、海外のオペラ歌手や舞台俳優、海外からの出張などで、短期滞在されることも多かったそうです。

「新宿などの喧騒から離れて静かで、商店街も近い。キッチンもあることから、リピートされる方も多くいました。ところが、コロナ禍になって、新国立劇場での公演もなくなり、出張もオンライン会議に代わり、稼働率は悪化。そこで、築30年を超えるこの物件を改修することになったんです。社長をはじめ歴代の営業が携わってきた、思い入れが強い物件だった事もあり、新たなプロジェクトチームが作られてリニューアルに向けて動き出すことになりました」と岩尾さんは、物件への愛着を教えてくれました。

改修前は、短期滞在者が多かったこともあり、管理人が24時間常駐するなど、ホテルのようなサービスが充実していたというこの物件。

「一般的な賃貸マンションと違い、共用部分は全体の3割にも及ぶ広さがありました。この共用部分を、魅力あるコンセプトでリニューアルして、新しい入居者に届けることにチャレンジしました」。

 

マンション全体を緑あふれる癒しの空間へ

撮影:篠澤建築写真事務所

3割にも及ぶ共用部分をどうするか。物件のコンセプトは何か。コロナ禍の時代に何が求められているのか…様々な企画をプロジェクトチームで検討しました。時代の変化とIOTの普及、更にはコロナ禍により住宅に求められている機能は大きく変化しています。仕事に対する環境も多様化し、在宅勤務やワ―ケーションも新しいワークスタイルとして定着しつつある状況を最大限取り入れ、仕事もプライベートも充実した空間の提供を実現することを目的として、リニューアル後のマンションには『バイオフィリックデザイン』を取り入れることになります。

バイオフィリックデザインとは、『人間には自然とつながりたいとう本能的欲求があり、自然と触れ合うことで健康や幸せを得られる』という『バイオフィリア』概念を元に考案された「オフィス緑化」のデザイン手法です。室内に植物を設置するメリットは、環境美化だけでなく、生産性・幸福度のアップなどメンタルヘルスへの効果や、空気の浄化効果が期待されると言われています。この手法は、従業員の健康管理や働き方改革を目的に、主にオフィスや店舗に導入されています。しかし、植物の管理や健康に育てることが難しく、住宅ではあまり取り入れられていません。そのため、岩尾さん達にとっては挑戦でした。

「素人の私たちでは植物に水を与えすぎたり、葉にほこりがついたりして、管理が難しいこともあります。なので、プロの方に教わりながら育てています」と、岩尾さんは言います。

共用部が多いリーフコートプラスでは、バイオフィリックデザインを取り入れたことで、中庭、地下の共有スペース、外部廊下の緑地量は4倍以上に増え、植物の種類は94種類にも及びます。

※バイオフィリア:生命や生き物、自然を表す「バイオ」と、愛好や趣味を意味する「フィリア」を組み合わせた造語で、「人は本能的に自然とのつながりをもとめている」という概念。


エントランス

撮影:篠澤建築写真事務所

エントランスを入って真っ先に視界に入る空間は、圧倒的な緑で自然環境を再現しており、バイオフィリックデザインがもっとも感じられる場所です。

「元々、ここは仕切られて中に入ることができない空間でした。そこを、中庭からつながる空間として、多くの種類の植物植えることで、入居者を穏やかに迎え入れてくれる空間になり、このマンションの顔になりました」と、岩尾さんは言います。

また、潅水装置を土の中に入れ、植物の手入れの負荷も極力減らす工夫がされています。

 

中庭

撮影:篠澤建築写真事務所

中庭のベンチでは、1人でゆったりと過ごしたり、仲間と会話をしたり、自然に触れながら思い思いの時間を過ごすことができます。
中庭から上を見上げると、青い空と、中庭を囲む外部廊下の手すりに設けられた植物が見えます。手すりには特注のプランターをボルトで固定して、潅水装置も完備して、手すりいっぱいに植栽を施しています。全フロア―に切れ目なく設置されていることで、植物が成長すると緑のカーテンができ、空の青さ、ベンチの白さで、趣のある落ち着いた雰囲気を与えてくれます。
空からの光や風、季節や天候によっても、その見え方や癒され方も変わってきます。植物の毎日の表情がとても楽しみになる空間です。

 

withコロナ時代に合わせたニーズを取り入れた共用施設

このマンションの地下の空間は全て共用部で、ワークスペースや会議室、フィットネススペースになっています。岩尾さんは、それについて計画当初からのコンセプトを教えてくれました。

「当初は、ワークスペースだけを作ろうという話もありました。しかしリラックスできるところや、運動できるところも必要だと思い、仕事・運動・食事ができることを重要と考え計画しました。計画時がコロナ禍であったことから、マンション内で完結できる環境、居心地の良い環境を追求することになりました。
そして、共用施設のコンセプトは、『緑と共に働き暮らす』とし、心身ともに健康で、仕事もプライベートも充実した暮らしを実現するコンセプトマンションになりました」。

 

ワークスペース

撮影:篠澤建築写真事務所

地下にあるワークスペースは、屋内外の緑に囲まれた静かな空間です。
ここの緑は、ワークスペースの中央や窓の外にも設置しており、仕事する人達が植物を感じられるようにレイアウトしています。緑に囲まれるように配置されたワークスペースは、一人で集中できるようにお互いの距離や視線が交わらないよう段差をつけ、窓の外に視線が向くように席の配置にも工夫をしています。また、入口からも見えにくいように配置されています。

岩尾さんは、「完全に室内であるこの空間は、扇風機を回していても、葉にほこりが付きます。日頃から葉を拭いたり、ミストを掛けたりしています。植物には、風と雨が大事で、雨がほこりを洗い流してくれるということがよくわかりました」と、室内で植物を育てる大変さを話します。

撮影:篠澤建築写真事務所

また、地下空間にある緑は、太陽の光が届かないので、育成の照明にもこだわりがありました。

「LED照明を制御して、昼間は赤い光と青い光を出して自然光に近く、植物が育ちやすい照度や温度に。夕方になると徐々に照明が暗くなり、植物が休める時間を作っています。全て自動制御で、ライティングデザイナーが、季節に応じて細かい設定をしています」と、岩尾さん。

植物の生育リズムを共にすることで、人のバイオリズムも整えられ、活力増進へと繋がっていくそうです。

 

フィットネススペース

撮影:篠澤建築写真事務所

地下には、フィットネススペースがあります。
ここには、筋トレマシンや、ランニング、バイクマシンを備えています。ヨガスペースやストレッチスペースにと思って作ったスペースは、セカンド利用の方が、お子さんと遊ぶスペースとして使っていることもあるそうです。
フィットネススペースの使用料は、家賃に含まれているので、通っていたジムを解約して、この物件に入居している人も多いそうです。

 

カフェ

一階のエントランスの裏には、カフェがあります。
この場所は、管理会社が運営をしており、管理人が店員を兼ねて平日9時〜21時、土日9時~17時まで常駐しています(月曜休み)。
食事を宅配で頼むより、カフェで食事をした方がいいと考える方も多く、利用率も高いそうです。朝食を食べる人、ワークスペース利用時の昼食、夜は住人同士おしゃべりをしながらお酒を楽しむ人もいます。住人と一緒であれば、外部の人も利用出来ます。

この他にも、マンション内にはテレビ会議ができる小さなスペースがいくつもあり、Wi-Fiを室内・共用部のどこでも無料で使えます。

「ワークスペースがあるマンションは増えてきましたが、それだけでは差別化出来ません。リーフコートプラスでは、仕事、運動、食事までマンション内で完結することを目指して、他にないマンションを作りたかったんです」と岩尾さんは言います。

 

ひとりで楽しむ暮らしを求めて

「この物件を計画するにあたり、シェアハウスなども多く見学しました。シェアハウスでは、コミュニティを育むためにイベントに力を入れています。しかし、私たちはそれだけのマンパワーがありません。そこで、コミュニティよりは、居心地のいい空間を作ることに重点を置きました。ワークスペースも、一人で作業ができるように、十分な間隔を取って作っています」。

コロナ禍ということもあり、ひとりで居心地のいい空間、あまり交わりすぎず適度な距離を保ちながら、交わりたいときには交わる場所があるという、世の中にない物件を作りたかったそうです。

入居者は、元々住んでいた居住エリアを超えて、住み心地のいい住宅を求めて引っ越してくる人が多いそうです。
「30代のIT関係やフリーランスの方が多く、以前シェアハウスに住んでいたという方も多くおられます。20代は、シェアハウスで暮らし、ワイワイと過ごすことが多かった人が、30才を過ぎて、ひとりで落ち着ける生活空間、ひとりになれるワークスペース、イベントはなくても、身近に集まれる人もいる。そんな暮らしを求めて、リーフコートプラスに入居された方が多くいますね」と、お住まいの方について教えてくれました。

決め手は、緑が多くある、ワークスペースがある、ジムがある、カフェがある、共有施設の使用料金が家賃に含まれているなど総合的に判断して、地元エリア外からも人が集まっているようです。

 

取材を終えて

今回取材した、リーフコートプラスは、元々全体の3割もの共有スペースがあったことで、その広さを活かして、緑が豊富な中庭やワークスペース・フィットネススペースやカフェなどの充実した共有施設を作ることが出来ています。それぞれに緑や統一されたデザインコードがあり、全体で『緑と共に働き暮らす』というコンセプトが成り立っています。
このように物件のコンセプトが一貫していることで付加価値が生まれ、物件の価値として入居者に届いていることが、取材を通して改めてわかりました。

また、リーフコートプラスでは、至る所に整然とデザインされた緑があり、都心で働く人々が暮らす単身向けのマンションにおける「緑のある暮らし」の形だと思いました。

フージャースでは「心の時代」において、人が自然と触れ合うことで五感を研ぎ澄ませていくことに着目し、「緑のある暮らし」を研究していますが、同じ場所に集まって暮らすことによって得られる心の時代を、「緑」を中心にして形にしていきたいと考えています。
「緑のある暮らし」の形は、都心なのか郊外なのか、単身向けなのかファミリー向けなのか、そこに住まう人々によって異なります。それぞれに合う形をデザインすることは難しいことですが、少しでも価値と感じてもられる「緑のある暮らし」実現していきたいと再認識しました。

また、緑を生活の中に取り入れることは、管理を考えると難しい点も多々ありそうです。しかし、マンションの中に緑があふれる共用空間を実現できれば、緑に目を留めて人がマンション内で立ち止まる時間が長くなったり、居心地の良い空間を求めて共用空間で過ごしてみたり、自然と人々が集うようになるかもしれません。その時には、ちょっとした会話も生まれるかもしれません。リーフコートプラスの取材から、その兆しを教えてもらったように思います。

 

撮影:篠澤建築写真事務所

LEAF COURT PLUS(リーフコートプラス)
https://www.arai-s.co.jp/leafcourt_plus/

所在地:東京都渋谷区幡ヶ谷2-3-4
交通:京王線「幡ヶ谷」徒歩4分
総戸数:80戸
階数:5階建て
竣工:1988年3月(2022年8月 全館フルリノベーション済)
事業主・運営会社: 株式会社荒井商店