「文学創造都市おかやま」を盛り上げる、文化のハブになる書店

【岡山 文学とまち インタビュー vol.1】「オモテマチブックスクエア」 中谷祐太郎さん

表町商店街の南側にある「オモテマチブックスクエア」。ここは、毛色の異なる4つの書店が集まり、イベントも頻繁に開催されている一風変わった本屋です。全国的に「街の本屋」が姿を消していく中で、なぜ今、岡山の商店街に新しく書店を立ち上げたのか。店長の中谷さんに、本や街、そして岡山の文化への思いを伺いました。

 

個性的な4つの書店

オモテマチブックスクエアは、コンセプトの異なる4つの書店で構成されています。「正夢書房」は、コアな読者層に響く書籍を扱いながらも、絵本や児童書、実用書やビジネス書まで幅広く取り揃える、誰が来ても楽しめる書店です。

通路を挟んだ向かいにある「Her Story(ハーストーリー)」は、絵本や育児、ファッション誌など、女性や子ども向けの本に特化したお店。2階にカフェがあり、さまざまなイベントを開催しています。

そのほか、建築や歴史など男性読者を意識したラインナップの「His Story(ヒズストーリー)」、入門書から専門書までの美術書を扱う「Agedor(アジュドール)」があります。

共通しているのは、大型書店とは異なる選書の個性です。ニッチな本や、スタッフが自らの視点で選び抜いた本が棚に並びます。目的の本を買うだけなら、大型書店のほうが在庫もあり早いかもしれません。しかし、あえてこの書店に行きたいと思える理由がここにはあります。

スタッフと来店者の距離が近いのも特徴のひとつです。「おすすめを教えてください、と気軽に声をかけてもらえる。地域の人との交流があるのが大型書店との違いで、常連さんを生んでいるのではないでしょうか」と中谷さんは話します。

 

なぜ今、書店なのか

書店オープンの背景には、オーナーである時計・宝飾品販売を営むトミヤコーポレーションの古市会長の思いがありました。「文学を岡山に、表町に根付かせたい」という願いです。
岡山市は、坪田譲治文学賞をはじめとするさまざまな文学事業や地域活性化に取り組み、「文学による心豊かなまちづくり」を進めてきました。2023年には、日本国内で初めて「ユネスコ創造都市ネットワーク・文学分野」に認定されています。「文学創造都市おかやま」として、年間を通して盛んにイベントも行っていますが、その認知が市民全体にまで十分広がっているとは言い切れません。文学を通して岡山の文化をさらに広めるため、文化をより身近にする拠点として考えられたのが書店でした。
その思いは中谷さんも同じです。「書店はなんでもできる場所なんです」と語ります。「歴史の話をしようと思えば歴史書があるし、あるスポーツ選手をみんなで応援したいとなればイベントを企画することもできる。本自体が文化というよりも、本を媒介に多様な文化が広がっていく。書店は文化を広めるのにうってつけなんです」。

 

人生に寄り添う本

現在は店長として書店を率いる中谷さんですが、「特別なことはしてこなかったし、勉強も得意ではなく、スポーツばかりしているような人だった」と振り返ります。転機となったのは、中学生の頃に読んだ小説を数年後に読み返したときの体験でした。「同じ本なのに、涙が出てきたんです。本にはこんな力があるんだと気づいた瞬間でした」。以来、本や書店の面白さや素晴らしさを広めたいという思いが芽生えます。「人は人生の岐路に立つと本を買いにくる」と中谷さん。受験を前に参考書を手に取る学生、資格取得を目指す社会人、仕事に悩みビジネス書を探す人など、人生の節目になると普段本屋に行かない人も足を運びます。
そんな思いも抱きながら、トミヤコーポレーションが「本屋をやる」という話を耳にし、中谷さんも応募をしたところ、オーナーの理念と中谷さんの思いがぴったりと重なり、最初の店舗「正夢書房」が形になりました。

 

本屋の枠を超えて

店長就任時、オーナーから投げかけられたのは「4つの箱があります。あなたならどう街を盛り上げますか」という問いでした。空間だけが与えられた状態から、中谷さんは4つの個性ある書店を構想しました。「オーナーの思いが土台にあって、私はその船を運転しているだけ」と謙虚に話します。
スタッフの顔ぶれも特徴的です。書店経験者は少なく、それぞれが別の専門性や活動を持っています。例えば、美術関係の本を扱うアジュドールのスタッフは絵描きが多く、建築分野の経験者もいます。「面白いから」あえてそういうスタッフを集めているそうです。そうしたバックグラウンドが、各店舗の棚づくりに反映されています。

スタッフの得意分野を活かした多彩なイベントも多数開催しています。読書会や絵本講座といった書店らしい企画に加え、アンティークの展示会、デッサン会、スキンケアの催しなど、書店のイメージを超えるバリエーション豊かなイベントが実施されています。イベントのチラシ制作も絵の得意なスタッフが担当しています。

 

文化を生み出す場所へ

営業を続けるなかで、文学を根付かせたいという思いが徐々に形になっている手応えも感じているそうです。著名な書道家や芸術家が来店することもあり、自然とクリエイターが集まる場になりつつあります。来店者との会話から新たな企画が生まれることも少なくありません。
今後について尋ねると、「まあ、見ていてくださいという感じなんですが」と中谷さんは笑います。「例えば小説の作者との読書会を、もっともっと強烈に大きく展開していきたい。いろいろな人と触れ合い、知識を深められる場にしたいですね。そして、いつかここから芸術家や作家、クリエイターが生まれてほしいと思っています。本屋だけれど、『なんじゃああれ』と言われる存在になりたいですね。本はあくまで媒体。書店はなんでもできるし、文化のハブになれると思っています。作る人も享受する人も集まる場になってほしいですね」。

商店街の一角に生まれた、小さな文化拠点。オモテマチブックスクエアは、「文学創造都市おかやま」を体現する場として、これからも新たな価値を生み出していくはずです。自分の世界を広げてくれそうな、こんな本屋が近くにあったらいいのにと感じずにはいられない取材でした。

 

中谷祐太郎(なかたに ゆうたろう)

正夢書房店長。オモテマチブックスクエア4店舗を率いる。
休日は岡山中の本屋へ出没。つまりは年中本屋生活。
古市大藏会長の『表町本屋構想』に出会い、共感し正夢書房をはじめとする全ての店舗の立ち上げを行う。