カフェ、アマゴ養殖、林業、移住支援。
目の前にあるものを、ビジネスに変える力

【表町商店街コロナインタビュー vol.4】café&bar naradewa 松田礼平さん

表町商店街の南時計台のそばにあるcafé&bar naradewa。店名の「~ならでは」の通り、ストーリーのある食材をつかった、おいしい料理が食べられると人気です。このカフェで提供しているアマゴは、実は松田さんが養殖したもの。岡山市内でカフェを経営しながら、約100キロ離れた新見市でアマゴ養殖をする松田さんにお話をうかがいました。

知らない土地でのチャレンジ

松田さんは2014年2月に、地域おこし協力隊の制度をつかい福岡から移住してきました。福岡ではスペイン料理のシェフを経験した後、飲食店のマネージャーをして、料理と経営の2つの経歴を積んできました。元々起業に興味があり、いつかはチャレンジしたいと思っていた松田さん。知っているつながりよりは、知らない土地でという思いと、特に田舎でスタートしたいという思いから、あえて地縁のない岡山県の西北端、広島県と鳥取県に接する町、新見市神郷町(しんごう)を選んで移住してきたのです。

アマゴ養殖が、カフェ事業につながる

松田さんが着任した新見市は、水が非常に豊かな地域で、かつてはアマゴの養殖が盛んに行われていました。当時は地区に4~5軒ほどの養殖場があったそうです。しかし事業者の後継者不足や高齢化が進み、松田さんが着任したころには、全て廃業。これを見た松田さんは、「かつて存在した地域産業を復活させることが、地域おこしになるのでは」と、着任から1か月でアマゴ養殖を始めます。
地域産業だったこともあり、設備は既存のものを利用したり、稚魚を近隣から仕入れたりと、設備投資を抑えることはできました。しかし、アマゴは出荷まで半年~1年かかりますし、それを出荷する販路をつくることにも、当時は苦戦したといいます。その後、年間5万匹の出荷量までに成長し、地域の食材を伝えたいと、地元のお祭りやイベントで露店を出店。事業も安定していきます。
「事業は安定していきましたが、自分がやりたかったのは、お祭りに出店する的屋ではなかったはずなのにと、アマゴ単体でビジネスをする限界を感じていました。アマゴ養殖を通じて、様々な食材の生産者さんたちとのつながりもできたので、食材を伝える場を作りたいなと思い、飲食業をスタートさせることにしたのです」。
こうして松田さんは、飲食事業実現のために動き始めます。人の行き来を考えて、岡山駅から近い立地で物件を探しましたが、なかなか見つからず、偶然行きついたのが表町商店街でした。
「表町商店街は、特別賑わっているというわけではありません。だからこそ、そこで事業をすることがおもしろいと思いました。飲食業で儲けることには限界がありますが、ランニングを抑えながら、そういう場所だからできるビジネスを生み出していく方が面白いと思って」と松田さんは表町商店街を選んだ理由を話します。そして、2019年4月にcafé&bar naradewaがオープンしました。

そこにあるものを使う シンプルなビジネスの作り方

松田さんは現在、4つの事業を行っています。岡山市ではcafé&bar naradewa、新見市では、アマゴの養殖以外に間伐材の伐採事業、移住支援のNPOです。
新見市は総面積の86.1%が森林です。そのため、市では林業の活性化や森林の整備に力をいれてきました。そこに自分でも力になれることがないかと考えたのが間伐材の伐採事業でした。また新見市は、他の地域と比較してかなり早い段階から、移住の促進にも力を入れてきました。そのため松田さんのNPOでは、市から業務委託を受けて空き家バンクのサポートや、移住者の現地での生活サポートを行っているそうです。
一見遠そうな4つの事業ですが「アマゴ」や「間伐」、「移住」といった目の前にある資源に、自分の想像力を使って、ビジネスに仕立て上げる。この事業の着目点と作り方が松田さんのユニークなところです。一つの事業で大きく利益をあげることはありませんが、全体をよいバランスでまわしていると松田さんは言います。
「自分が事業をするのに、素材は何でもいいと思っています。伝えたいと思っている生産者さんと、ビジネスの接点を見つけることが面白くて。まちづくりというと、ボランタリーに動いていることが多いですが、それよりも自分は、消費者のニーズを考えてビジネスにするほうがしっくりきますね」。

新型コロナウイルスを受けて

昨年オープンしたcafé&bar naradewaは、新型コロナウイルスの影響を受けて、元々入っていた予約がキャンセルになり、ここ数か月は不安定な経営が続います。しかし、元々一見さんよりも常連客が多いため、そのお客さんたちが来てくれているといいます。また、テイクアウトサービスを元々実施していたため、その発信に力を入れたり、テイクアウトアプリを導入して、サービスの利便性を上げることに力を入れているそうです。

松田さんには、今、新しくチャレンジしてみたいことがあると言います。
「事業をつくるのにソーシャルベンチャーをしたいといった気持ちや、社会課題を解決したいという意識が入口にあるわけではありません。もちろん、自分の事業で地元に雇用が生まれたらいいとは思っていますが。例えば、アマゴの養殖やカフェ事業を通して生産者さんとのつながりも広くなってきたので、次は地元を超えて、生産者さんの思いをもっと広域に広げていきたいと思っています。例えば、野菜の購買の仕組み。野菜を買うことをもっと簡単にして、生産者の顔が見えて、値段が少しスーパーよりも安い。購買の仕組みを少し変えることで、そんな当たり前の買い物を変えたいですね」と、松田さんは淡々と話します。
事業が儲かるかよりも、継続性をつくれるか。自分の生産量を増やすよりも、ネットワークや人との関係性を拡大して事業を協同できるか。非常に堅実で、そして淡々と目の前の課題をビジネスに変えていく姿の中に、一度始めたら最後までやり抜きたいという思いと、自分でなければできない事業は嫌だという強い意志が垣間見える取材でした。

松田礼平(まつだ れいへい)
1988年生まれ、福岡市出身の32歳。2014年に地元福岡から岡山県北西部の新見市に移住。かつて地域のナリワイとして盛んに行われていたあまご養殖を復活。初年度に1万匹の養殖から独学ではじめ、現在では5万匹の養殖を行っている。2019年4月に、岡山で出会った造り手や様々な食材が持つ「〜ならでは」のストーリーをたくさんの方に届けたいと表町3丁目にcafé&bar naradewaをオープン。普遍的なモノ・コト×新しいモノ・コトをテーマに、まちとローカルと繋げる仕掛けつくりを数名のスタッフと取り組んでいる。

café&bar naradewa Facebook|https://mushimahamajo.amebaownd.com/