社会の未来を考える

―Webマガジン「greenz.jp」編集長
増村江利子さん

撮影:砺波周平

greenz.jp は、「生きる、を耕す。」を実践するWebマガジンとして、社会課題の解決やリジェナラティブデザイン※を主なテーマに、一人ひとりの暮らしを通じた行動から社会を変えるべく、国内外の実践者を取材し、新しい時代に必要な価値観やメソッドを届けています。創業は2006年。初代編集長は兼松佳宏さん、2代目は鈴木菜央さん、そして増村江利子さんは、3代目の編集長です。増村さんは、2011年からグリーンズのライターになり、編集も担当するようになって、2023年4月に編集長に就任しました。自分の暮らしの実践を大切にする増村さんに、ご自身の暮らしぶりや、社会をどんなふうに捉えているのかを伺いました。

※リジェナラティブデザイン(Regenerative Design):自然環境の再生と同時に、社会と私たち自身もすこやかさを取り戻す仕組みをつくること。

 

東日本大震災で気づいた、社会の「おかしさ」

増村さん「私の暮らしの変遷は、ずいぶんと変わっていると思います(笑)。20代後半、まだ独身の頃に、暮らしを変えようと、都内の会社から少し離れた神奈川県川崎市に、新築の分譲マンションを購入しました。深夜というか、早朝にタクシーで帰宅するのは、もうやめようと思って。週末に多摩川添いをジョギングしたいなと思って、東急田園都市線沿線を選びました。

それ以前は、ほとんど仕事しかしていないといった感じで、暮らしには無頓着でした。週末に洗濯をしたら、干しっぱなしで、洋服を畳んでしまうこともせずに、ハンガーから必要な着替えをとったり。当時の食事は、ほとんど外食でした。それで、暮らしを立て直そうと考えたんです。いま考えると、マンションを購入する必要はありませんでしたけれど(笑)。

そこから、どんどん変えていったんです。まず外食が減っていきました。もともと料理は嫌いではなかったけれど、炊飯器やコーヒーメーカーといったキッチン家電を一つずつ手放して、そのほうが美味しいことに気づいたら、楽しくて。そして、洋服は、それぞれ2枚ずつと決めました。下着は2セット、靴下も2足。毎日洗濯をすれば、最小限でいいと気づいたのです。

この頃から、当たり前であることを疑う習慣がついたように思います。例えば、蛇口をひねれば水が出てくる。スイッチを押せば電気がつく。ごみ収集所にごみを置けば回収してくれるといった生活インフラも、注意深く目を向けてみると、生きていくのに欠かせない水や食料も含めて、すべてをサービスで享受している状況は、実は危ういバランスの上にあるのではないかと思ったのです。

首都圏のスーパーに並ぶ生鮮品や野菜は、そのほとんどが他県からのお取り寄せです。エネルギーにしても、福島の原発で電気を大量生産して、大消費地である首都圏に送電するのではなく、いわゆる地産地消で、地域内で小さくつくって、小さくつかうほうがいい。自然エネルギーに代替するだけでなく、エネルギーの消費量を少なくすることも考える必要があります。東日本大震災は、そうしたことに気づくきっかけにもなりました。」

 

暮らしの実践を通じて見つけていく、自分のものさし

増村さん「また、取材や発信を通じて、資本主義社会の次の社会において、大切にしたい哲学を探していました。パーマカルチャーなのか、DIYなのか、トランジション運動※なのか。もちろん、それらは人の意識を変えていくムーブメントではあるけれど、その根底にあるものは何かを知りたかったのだと思います。

そして、「自立」を大切にしたいと考えました。これまでお任せにしてきたすべての物事を、自分たちの手に取り戻すことです。私自身が傍観者ではなく実践者でありたいし、実践しているからこそ出てくる言葉を社会に届けたい。だから、目の前の当たり前のことに意識を向けて、自分のものさしで最適解を探すことを積み重ねたいと考え、暮らしのなかで一つひとつ実践していました。」

家のドアをDIYでつくっているところ

*ヒッピーカルチャーとパーマカルチャー・トランジション運動とは:60年代、アメリカにおいてヒッピーカルチャーが生まれます。大量生産、大量消費という経済発展の仕組みに疑問を持ち、国家主導ではなく、市民を主体とした暮らしを考えていこうと、運動は始まります。資本主義経済を担う様々な仕事にはできるだけ参加せず、より自然に近い暮らしを目指し、この運動は世界に拡大していきました。
パーマカルチャーは70年代後半に、オースオラリアで農業を中心としながら暮らしの体系をつくったもので、持続可能な農業、持続可能な暮らしをテーマにしています。日本の自然農法を参考にしたとも言いますが、今では全世界に広がっています。
トランジション運動は2000年代にイギリスから起きました。地球温暖化と石油の埋蔵量の限界を唱え、我々の暮らしがいかに石油を消費し、地球環境を破壊しているかを課題とする活動団体です。ヒッピーやパーマカルチャーが都市を離れて自然の中に暮らしのベースを動かしたことに対し、トランジション運動は荒廃した街に住み始めた人が、既存の街の人々を巻き込みながら支持を広げていきました。

 

増村さん「例えば、冷蔵庫や掃除機はもちろん、洗濯機もやめて、手洗いをしてみました。3ヶ月ほど頑張ったのですが、家族分の洗濯は、1時間くらいかかるんです。さらに、出張から帰ると、深夜にまちなかのコインランドリーに駆け込んだりして。これは本末転倒というか、洗濯機は必要であると思い直して、使うことにしました。でも、やめてみてよかったと思っているんです。洗濯という家事がどれほど重労働であるかが分かったし、洗濯機がいかに優れた家電であるかも分かりました(笑)。やってみて、違うなと思ったら元に戻す、そうした柔軟さは持ち合わせたいですね。」

増村さんは、1995年に東京から長野県富士見町に移住。トレーラーハウスでの暮らしを経て、現在は小さな9坪の家で、当時出会ったご主人と子ども3人とで暮らしています。家族5人での暮らしには究極の狭さかもしれませんが、それゆえ増村さんはものを持たないことに徹しています。さらに、ごみを17種類に分別するほか、生ごみコンポストを始めて、「ごみは、燃えるか燃えないかではなく、土に還るか還らないかである」と気づいたといいます。

現在は、9坪程度の小屋に暮らしている

増村さん「日本は、ごみを焼却するという政策をとっていますが、そうした政策をとっている国は、ごくわずかです。コンポストを始めて数日が経過して、土の上にうっすらと白いカビが生えてきて、とても嬉しかったのを覚えています。その菌こそ、生ごみを食べてくれる菌なのです。

それから、ふと、トイレットペーパーを流すのは、森をトイレに流しているのと同じことなんじゃないかと思って。ならば他の方法はないのか、どんどん侵食して竹害といわれてしまう竹でトイレットペーパーをつくれないか?と、竹のトイレットペーパーを製造して定期便で販売する事業を始めました。竹の消臭力にあらためて気づいたことから、竹でつくった猫トイレの砂の製造と販売も。暮らしのなかで気づいたことを、小さいながらもビジネスにして社会に発信し、商品というかたちで生活のなかへダイレクトに届けたいと考えています。」

 

国破れて山河あり。自然がなければ、私たちは生きられない

暮らしの実践から社会を変えていくという視点から、また編集者という視点から、増村さんは、どのように社会を見つめているのでしょうか。

自宅近くにある湧水。晴れの日も、雨の日も、雪の日も、愛犬とともに出掛ける場所

増村さん「むしろ、いまの国民国家が、ここ数百年続いた社会実験なのではないか。そう聞いて、この国民国家そのものが実験であるならば、私たち自身で、自由に社会をつくっていいということかなと思いました。そして、その実験が失敗したとしても、山河は残る(国破れて山河あり)。そもそも山河がなければ生きられませんから、私たちが大切にしなければならないのは、むしろ山河を守ることが先ではないかとも思いました。

気候変動という意味合いでは、残念ながらもう手遅れです。だからといってこのままにするのではなく、自分たちの世代で、人間中心で考えてきた資本主義を終わりにしなければいけないし、未来の人たちに対して、責任をとるべきであると考えています。

そしていま、変革の流れが確実にあると思っています。一つめは、一隻の大きな船にしがみつくのではなく、小さな船を無数に漕ぎ出しましょう、といったこと。都市の一極集中ではなく地方へ分散するという動きは以前からありますが、ブロックチェーンなど、小規模分散型への移行が挙げられます。もう一つは、新しい自治のあり方です。かつての集落が共有財としてもっていた入会地のような、「共(コモンズ)」の部分を取り戻しましょう、といったこと。地方自治体が担う自治のなかで、自分たちがやったほうがいいことは自分たちに取り戻す「第二自治」を展開しようとする動きや、リクエスト(やってみたいこと)とハブ(自分は何ができるか)を社会に提示し、地域のなかに小さなコモンズをつくり直す動きも、それにあたります。」

続けて、お金をどう扱うか、仕組みだけでなく、再分配をどうアップデートするかも注目しているといいます。

増村さん「お金そのものが、実は大きな社会課題であると考えているんです。世界を複雑にしてしまった一つの大きな要因でもある。お金という道具を使うことで、遠くにあるものを簡単に取り寄せることができます。つまりお金を使うことで、本来は使うことができないものまで、無理やり手繰り寄せている状態だと思うのです。この部分に関しては、適正に戻すことは相当難しいだろうと考えています。

そしてこれからは、社会保障の領域を、自分たちで担っていく動きが出てくるだろうと思います。生存すること自体が危機である状況での前提部分なので、安全保障と言い換えてもいいかもしれない。それだけ、国にお任せするのは難しい時代であると思います。

そして、お金の再分配の仕組みを、考え直さなければいけないと思います。圧倒的に若者が少なく、減少していくなかで、働く若年・現役世代の税収で高齢者を支える構造は、無理があると思います。単に少子高齢化の問題ではなく、再分配モデルが、人口が増加する人口ピラミッド前提で設計されていることの限界です。

そして、先述の分散化や「共」の部分を取り戻していく試みは、本来の民主主義をあらためて考え直す機会でもあります。社会は自分たちで自由につくっていいという考え方が広がった、その先の景色を見てみたいと思っています。」

 

ルネサンスの再到来を機に、これまでの社会と決別する

暮らしの実践を土台にしながら、社会の変革の兆しを追い続けている増村さんに、特にここ数年の社会の変化をどう感じているのかを聞いてみました。

増村さん「あらためて俯瞰してみると、次の新しい社会を自分たちでつくる、ポスト資本主義と言われてきた社会が、ようやく到来しつつあるのではないかと考えています。

それは、現代版ルネサンスともいえるのではないかと。かつてのルネサンスは、知(古典復興)、美(芸術)、人間(人文主義)という3つの要素が尊ばれました。ペストという危機を一つの起因として、中世という暗黒の時代に光をもたらしました。少し飛躍があるかもしれませんが、科学技術の進歩も相まって、それまでの神に変わってこの世界を人間が再構築していくという、新しい認識の到来だったのではないかと思います。つまり、世界は理解可能である、コントロール可能であると信じたということです。

それ以降、経済至上主義も加わって、環境を破壊し、分断を生むほど暴走してしまいました。分断はさらに進む予感もあります。しかしそうした反省を踏まえ、複雑さを生きるなかで、いま、新たなルネサンスが興っているのではないかと感じています。それは、気候危機がもたらした人類の生存という脅威に対して、もう一度自然を中心に、あるいは循環のなかに世界を再構築しようとする認識なのではないかと思うのです。」

その認識とは、具体的にどのような認識なのでしょうか。増村さんは、少し考えて、こんなふうに答えてくれました。

 

撮影:砺波周平

増村さん「そのキーワードは、生命科学※だと思います。生命という不思議なものを、不思議であると感じないまま、意のままにできるかのごとく考える社会をつくってはいけないと思うのです。」

*生命科学:生物の仕組みを分子レベルから生態系まで幅広く研究し、医療、食品、環境問題など現代社会の課題解決に役立てる学際的な自然科学分野のこと。生物学を基盤に、化学、物理学、医学、農学、工学など多様な分野を統合し、遺伝子操作やバイオテクノロジーを駆使して生命現象の本質を探求し、応用する点が特徴。

増村さんは幼少期、小児リウマチという病に罹患し、入院生活を送っていましたが、水疱瘡にかかり、その治癒の過程で病も完治したのだそう。

増村さん「大学病院の医師が、こんな不思議なことがあるのかと驚いていました。自分の身をもって、生命の不思議さを知ったんです。生命とは何かという本質的な問いを携えて、そこから社会をもう一度自由につくってみたい。

また、高校で学習する物理、化学、地学、生物という教科のうち、物理と化学は以前から変わらないけれど、地学と生物学は、この20〜30年でまったく違うものになっていると聞きました。その研究者は、これからも変わっていくでしょうと言うのです。生命科学という、生命を真ん中に考える視点をもちながら、地学と生物学がアップデートされていく課程で、私たち人類がどこで、何を間違えたのかが、どんどん明らかになっていくのではないかと思います。」

最後に、哲学の必要性について話してくれました。

増村さん「なんだか学問の話をしているように聞こえるかもしれませんが、いわゆる一般的な学問ではなく、実践や経験から学ぶ、身体的な理解でなければなりません。

もうひとつ必要なものを加えるならば、哲学です。これから、時代のOSが入れ替わります。新しい時代には、技術や制度より先に「世界をどう理解し、どう生きるか」という根本の更新が必要であり、それを担うのが哲学だと思うのです。どのような言葉をもって、その哲学を世界に投じるかに、挑戦したいと思っています。」

増村さんがこれからどのように社会を見つめ、発信していくのか。そして、greenz.jp の今後の展開も楽しみになった取材でした。みなさんはどのように受け止めたでしょうか。

 

 

増村江利子さんプロフィール
greenz.jp編集長/環境再生医

国立音楽大学卒。執筆、編集、デザイン、プロデュース、地域活動。さまざまな領域を横断し、編集家として社会を見つめ、コモンズをつくる。ミニマリスト。greenz.jpのほかに、esse-sense編集、『Community Based Economy Journal』副編集長など。2017年に東京から長野県諏訪郡に移住。三児の母として、犬二匹、猫三匹とともに、9坪程度の小屋で小さく暮らす。ミニマリストとしての暮らしぶりは『アイム・ミニマリスト』(編YADOKARI)にも収められている。竹でつくったトイレットペーパーの定期便「BambooRoll」を扱うおかえり株式会社の共同創業者、「竹でつくった猫砂」を扱う合同会社森に還すの共同代表。「Forbes JAPAN 地球で輝く女性100人」に選出(2018年)。信州大学で里山と暮らしをテーマに農学修士を取得(2024年)。