誰でも自由に文学を楽しむ場を。「おかやま文学フェスティバル」

【岡山 文学とまち インタビュー vol.4】「文学創造都市おかやま」文学による心豊かなまちづくり 前編

「岡山 文学とまち インタビュー」では、これまでオモテマチブックスクエア、古本斑猫軒、451ブックスの3軒の書店を紹介してきました。実は岡山市は文学のまち。「文学創造都市おかやま」※1として、岡山市と民間事業者が手を取り合い、文学による心豊かなまちづくりに取り組んでいます。2023年には、ユネスコの創造都市ネットワーク※2の文学分野に加盟認定されました。
岡山における文学分野での取り組みや文学とまちのつながりについて、岡山市文化振興課の流尾さんと門田さん、岡山の文学イベント「おかやま文学フェスティバル」実行委員会である古本斑猫軒の渡邉さんと451ブックスの根木さんにお話を伺いました。
前編では、「文学創造都市おかやま」の背景と、「おかやま文学フェスティバル」について紹介します。

※1 文学創造都市おかやま:https://www.city.okayama.jp/bungakucity/index.html
※2 ユネスコの創造都市ネットワーク:
文部科学省のユネスコ・クリエイティブシティーズネットワーク(ユネスコ創造都市ネットワーク)について
https://www.mext.go.jp/unesco/006/1357231.html

 

生活に文学が息づくまち、おかやま

クロチャン / PIXTA(ピクスタ)
岡山県立図書館

全国で「岡山といえば?」という質問に対して「桃太郎伝説発祥の地」と答える人はいても、「文学のまち」と答える人は多くないかもしれません。
しかし岡山には、古くから文学に親しむ文化がありました。江戸時代には、現在の表町商店街周辺で、豪商・河本家が3万冊を超える蔵書を備えた私立図書館「経誼堂(けいぎどう)」を設けていました。 また、岡山市立図書館は、大正時代に市民の寄付によって設立された図書館です。
そして、40年以上の歴史をもつ坪田譲治文学賞は、昭和59年(1984年)の創設以来、岡山市によって継続的に実施されてきました。 市民とまちが手を取り合いながら、岡山では文学に親しむ文化が受け継がれてきたのです。 そんな中で「文学による心豊かなまちづくり」を目指す機運が、地元出版社をはじめとする文学関係者の間で高まりました。その流れの中で、ユネスコ創造都市ネットワーク・文学分野への加盟を目指す取り組みが進められ、2023年には、市民参加型のイベント「おかやま文学フェスティバル」がスタートしました。
岡山県立図書館は、2024年度の貸し出し冊数が5年連続で全国1位。また、市内の公立の小中学校すべてに学校司書が配置されているなど、岡山県民・市民の本への親しみ度合いがうかがえます。「本を読む土壌がしっかりあるんですよね」と、流尾さんは話します。「そして、文化や活動を次の世代へ受け継いでいく。その意識は、当時から確かにあったのだと思います。」

 

おかやま文学フェスティバル

おかやま文学フェスティバル2025の様子

「文学創造都市おかやま」の取り組みの中でも、一段と盛り上がりを見せているのが、「おかやま文学フェスティバル」(以下文学フェスティバル※3)です。
「文学創造都市を掲げるなら、文学のフェスティバルがなくては」 。そんな思いで、2023年から始まりました。本のことならば本屋さんに頼ろうと、文化振興課から古本斑猫軒の渡邉さんや451ブックスの根木さんにお声を掛けました。おふたりならではの岡山内外のネットワークを生かして、さまざまな書店や出版社を巻き込みながら、企画がスタートしました。
「文学フェスティバル」では、毎年春と秋に岡山市の各地で、坪田譲治文学賞の関連企画をはじめ、多彩な文学イベントが開催されます。一般の人も、誰もが小さな本屋になって本を販売できる「表町ブックストリート」の一箱古本市や、作家のお話を聞くこともできる「文芸商店街」など、内容は多岐にわたります。

2026年3月7日岡山ドームにて開催された「ZINEスタジアム」の様子

お話を伺っていて感じるのは、文学フェスティバルの受け皿の大きさです。
文学フェスティバルへの関わり方は、本を買ったり、売ったり、読んだり、書いたりさまざまです。そこに経験や立場は関係なく、誰でも好きな形で参加できるようになっています。
例えば本を書いたり売ったりすることは、一見ハードルが高そうに思います。しかし、プロ・アマチュア問わずに出店できる、小規模出版物の即売会である「ZINEスタジアム」では、毎年岡山市内外から多くの人が出店し、各々自主制作の本や冊子を販売しています。そこでは完成度だけでなく、「つくってみたい」「届けたい」という思いが大切にされています。 「関わり方にも段階を踏めるようにしているんです」と根木さんは話します。もちろん、本を書いたり売ったりせずとも、当日だけふらっと来場する、ライトな関わり方も大歓迎です。つまり、0から100まで楽しめる。普段本をあまり読まない人も、本が大好きな人も、両方参加できるように、敷居は低く。でも楽しもうと思えばコアな楽しみ方もできるような設計を意識しているそうです。
また、文学フェスティバルには、一般の参加者だけでなく全国の書店や出版社、作家さん、図書館の人も垣根なく参加しています。本だけでなく、短歌や舞台脚本など、文芸を取り巻くさまざまな表現にも開かれています。立場や経験、ジャンルを問わず、誰もが自由に参加できるのが、このフェスティバルの特徴です。
根木さんは、「“ブック”フェスティバルではなくて“文学”フェスティバルなのも、あえてです。こんなに包括的なイベントも珍しいんじゃないかな。本当に文学が好きなのであれば、ジャンルも立場も、関係ないですから」と楽しそうに話してくれました。

※3 おかやま文学フェスティバル:https://okayamabungaku.jp/

 

文学フェスティバルを開催してみて

「当初、岡山が文学のまちであるという感覚はそんなになかったんですが、文学フェスティバルをやっていくうちに『これからそうなっていけばいいんだ』と思うようになりました」と渡邉さんは言います。
回数を重ねるごとに、参加者や市民の方の熱量も文学の輪も強くなっていくのを実感するそうです。実際に、「ZINEスタジアム」の出店者は毎年増えており、出店者枠を増やしても、すぐに枠が埋まってしまうとのこと。2026年3月7日、岡山ドームにて開催された「ZINEスタジアム」には約200の出店者が集まりました。「ZINEスタジアム」のほか、「表町ブックストリート」など合わせると2025年度には約7,000人がイベント等に来場しました。
この文学フェスティバルの効果は、イベント期間外にも感じると渡邉さんは言います。「集まって本を黙々と読む『サイレントブッククラブ』は当初から会期外にも開催されていたので、お祭りの“ハレ”の時だけじゃなくて日常である“ケ”でも文学の輪が広がっていて、文学が暮らしの中にも息づいてきているのを感じます」。

「文学創造都市おかやま」のその名にふさわしく、誰よりも自由に文学を楽しむ岡山の人びと。岡山では、文学は特別な人だけのものではなく、暮らしの中で楽しむ文化として育ち始めていました。

後編では、岡山市の「ちいさな物語」マガジン『うったて』をはじめ、文学を通じたまちづくりについてご紹介します。