文学を中心に人がつながり、新しい交流が広がっていく岡山
【岡山 文学とまち インタビュー vol.5】「文学創造都市おかやま」文学による心豊かなまちづくり 後編

岡山市街と後楽園
「岡山 文学とまち インタビュー」では、これまでオモテマチブックスクエア、古本斑猫軒、451ブックスの3軒の書店を紹介してきました。実は岡山市は文学のまち。「文学創造都市おかやま」※1として、岡山市と民間が手を取り合い、文学による心豊かなまちづくりに取り組んでいます。2023年には、ユネスコの創造都市ネットワーク※2の文学分野に加盟認定されました。
前編では、「文学創造都市おかやま」の背景と、「おかやま文学フェスティバル」について紹介しました。
後編では、岡山市の「ちいさな物語」マガジン『うったて』と、まちづくりにおける文学の可能性について、岡山市文化振興課の流尾さんと門田さんにお話を伺いながら紹介します。
※1 文学創造都市おかやま:https://www.city.okayama.jp/bungakucity/index.html
※2 ユネスコの創造都市ネットワーク:
文部科学省のユネスコ・クリエイティブシティーズネットワーク(ユネスコ創造都市ネットワーク)について
https://www.mext.go.jp/unesco/006/1357231.htm
「ちいさな物語」マガジン、『うったて』

岡山市内の書店やカフェに行くと、『うったて』※3というフリーの文学情報誌が置かれているのを目にします。『うったて』は岡山市が発行する、「ちいさな物語」マガジンです。
開いてみると、まるで短編小説が一冊に集められたように、読みごたえのあるストーリーばかり。岡山の人びとやお店、そしてまちに関することが語り口調やそれぞれ個性的な文体で綴られており、どのストーリーも思わず引き込まれてしまいます。
「うったて」とは岡山の方言で、書道で筆を下ろす瞬間の「起筆」を意味することばです。『うったて』という名前には、「文学のまちをここからはじめていこう」という思いが込められています。
「まちは、多くの小さな物語が集まってできています」と、流尾さんは話します。その小さな物語を集めて本にしたのが『うったて』です。
例えば、商店街の中の老舗ラーメン屋の店主のこだわりや、地元の人に長年愛されるあのライブハウスのマスターのバックグラウンドや音楽への熱い思いなど。まちの表面ではなく、もっと深いところにある無数の物語は、まちを形づくる人びとの人柄や体温を読み手に感じさせてくれます。「物語を通して岡山のまちを、より好きになってもらうこと、より面白いと思ってもらうこと」が狙いだそうです。
また、『うったて』は、市民ライター、市民イラストレーターなど、数多くの岡山市民の手によって作られています。記事の取材を通して、ずっと行ってみたかったお店に行く機会ができたり、和菓子のイラストを見てお店に足を運ぶ人が生まれたり。『うったて』が、岡山の人と人とをつなぐ起点になり、文学を介したコミュニケーションが生まれていきます。
市民ライターが記事を書くこと自体に、強いこだわりがあるそうです。「最初は、市民の方に記事を書いていただくという企画が成り立つのか、不安もありました」と流尾さんは言います。そこで地元出版社である吉備人出版の山川さんの提案で始まったのが市民向けのライターの教室です。文章の書き方はもちろん、取材の仕方などについて、月に1度、岡山にまつわる様々な作家さんや有識者が講演をしています。『うったて』が、文章を書く一歩を踏み出すきっかけにもなっているようです。
※3 「ちいさな物語」マガジン、『うったて』の詳細はこちら:https://uttate.net/
文学によるまちづくりとは

文学とまちは一見すると結びつきにくい組み合わせです。岡山市の掲げる文学によるまちづくりとはどのようなものなのでしょうか。
流尾さんは、「岡山は、歴史や教育など、様々な面で文学の強みがあります。でも、それぞれが点として存在しているから気付きにくい。それらを文学という枠組みで整理していくと、『岡山には、文学の切り口だとこんなにいいところがあるんだ!』といういわばシビックプライドがじわじわ高まりつつあると思います」と話します。最近は「文学フェスティバルのことを広めたい、自慢したい」という声も聞こえてくるようになってきました。岡山市文化振興課が考えていた以上に、岡山市民の皆さんは文学を楽しんでいると実感しているそうです。
また、門田さんは、「文学が特別なものではなく身近なものになって、多くの人が創作活動を楽しめるようになって欲しいです。そして、文学によってまち全体が活気づくといいなと思っています」と言います。
文学は、食文化やクラフトなどといった他の分野と比較すると、やはり産業と結び付けにくい側面があるのは事実です。しかし、ほとんどの人が義務教育で国語を学びます。文学作品を読んだことが一度もないという人も、ほぼいないでしょう。流尾さんは「そういう観点では、すごく裾野が広く、浸透する土壌の範囲、関わりしろが広い分野なんだなと感じています」と続けます。
文学は、つまり言語やことばであり、そして人と人とのコミュニケーションです。だからこそ、人の思いをつなげ、人の心を動かす、文学ならではの力があるのかもしれません。
文学創造都市おかやまのこれから
2023年のユネスコ創造都市ネットワークの文学分野に加盟認定されてから3年経ち、じわじわと文学の盛り上がりを見せている岡山市。文化振興課のおふたりに今後の展望を伺ってみました。
「文学フェスティバルの手作り感も大切にしながら、来年はユネスコ創造都市ネットワークの国際会議もあるので、世界に向けてアピールもしていきたいですね」と門田さん。流尾さんは、「岡山市の文学の取り組みが、誰かの新たな挑戦や、何かを表現したいという想いを、さらに後押しできるようなものになったらいいなと思っています」と締めくくりました。
まちづくりは建物や道路を作ることだけで完結するものではありません。人と人とのつながりや、まちに関わる人の思いを育んでくことでもあります。文学が持つ力と可能性を信じ、まちの未来につなげようとする人たちの姿が印象に残る取材となりました。