男性の家事を考える。

写真提供:xiangtao / PIXTA(ピクスタ)

今回は男性の家事についえ考えてみようと思います。というのも男性の家事参加は単に家事を分担するという以上に、家事という行為そのもの意味や価値を見直すことにつながっているように思えるのです。

昨今の共働き層の増加が、男性の家事参加率を上げているのは想像できますが、少し時代背景について考えてみましょう。
かつての日本は「女性は家に、男性は仕事に」と言われていました。この状況は、戦後長い間続きました。今では「共働き」が、すっかり市民権を得ていますが、その変化もそんなに昔のことではありません。共働き世帯の推移を見てみると、1997年(平成9年)に共働き世帯が、専業主婦世帯を超えます(※1)。女性の社会進出の課題だけでなく、共働きを前提にしないと暮らしが成立しなくなってきているのも、その理由のひとつでしょう。その後、その割合は増加し続け、今では共働き世帯が専業主婦世帯の1.85倍までになりました(※1)。また現在政府が進めている働き方改革も男性の家事、そして育児参加などを後押ししていることもあるでしょう。

※1 内閣府男女共同参画白書平成30年版

共働き等世帯数の推移

男女共同参画白書(概要版)平成30年版 第3章 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)より。

家事に対するイメージ

近代になって家事というイメージは、「できればやりたくないもの」、「効率的にしたいもの」、そんなイメージとして定着していきました。家事に労働という言葉をつけて、通常の労働に対して「家事労働」と呼んで、労働を支える家事労働として、または労働の中でも最も低い位置付けの労働として考えられてきたように思います。歴史を振り返っても効率的なキッチン開発や家電製品への多くのニーズがありましたし、建築計画においても効率的な動線計画が検討されてきました。このことはもちろん良いことで、暮らしは随分と合理的に、そして便利になっていることは間違いありません。

建築の取り組み

この家事労働についての議論は、建築においては20世紀のはじめに大きなテーマとなりました。家事の効率化や動線計画といったことが、住宅研究のうえで重要な課題となるのです。
古くは1920年代のドイツで普及したフランクフルト・キッチン(※2)があります。ガスの登場によって効率的な調理器具の開発が始まったことがきっかけで、台所に初めてデザインの統一感を持ち込み、低コストで効率よく利用できるよう設計されたという点で、近代のシステムキッチンの先駆け的存在と言われています。

出典:Wikipediaフランクフルト・キッチン
※2 1920年代に設計された、近代のシステムキッチンの先駆け的存在。台所に初めてデザインの統一感を持ち込み、効率よく利用できるよう設計された、低コストのキッチン。

日本においては、特に戦後、公団の間取り研究の中で、キッチンの設置場所やキッチンそのものの開発が進められます。1950年代になると、様々な建築家たちが「小住宅」と呼ばれる小さな家の間取り研究に取り組み、その後も住宅研究の分野では、キッチンのありかたが幾度となく問われたように思います。そこでの議論は、女性の家事労働の負担を少なくすること、そして家族団欒の理想像をキッチン周りに作り出すことだったと考えます。

家事のイメージが変わるかもしれない

しかし、実は男性が家事に参加する頃から、家事へのイメージが良い意味で変わってきたように思えるのです。それは、ある意味、家事を労働としてではなく、楽しむものとして捉え始めているように思えるのです。
たとえば、料理はよい例です。料理好きの男性は、ますます増えているように思います。考えてみると、料理というのは、とても想像的な行為です。会社での仕事は、成果をだすまでに多くの時間を費やしますが、料理は一回ごとにその成果が見えますし、創意工夫は料理の醍醐味のひとつです。そしてなにより、その成果を、大切な家族と一緒に分かち合うことができます。「おいしい」と言ってもらえれば、喜びもひとしお、意欲も増すでしょう。
この男性の積極的な家事への参加が、今までの家事の概念を大きく変えていきます。共働きの女性にとって家事や育児は、楽しみどころかこれはもう戦争に近い感覚です。夕方の食事の準備などは、分刻みの戦いになっているに違いありません。しかしです。この男性の家事参加は、日々の様相をまったく変えていきます。オープンキッチンはもちろん女性の憧れですが、男性も料理をするという状況も加わり、夫婦で料理をしたり、料理をしながらお酒をのんだり、または友達をよんで一緒に料理を楽しむということが、理想のイメージとして生まれてきたともいえないでしょうか。また、テクノロジーの発達も助けてくれます。掃除を自動でしてくれるロボットや、最高のシェフのメニュープログラムが搭載されたスマートクッカー(電子調理器具)といった風に、家事において様々なテクノロジーが現れ始めています。家事が、ある意味エンターテイメントになりつつあるのです。早く家に帰って料理に勤しむ夫の姿や、それを妻が眺める姿は、家庭の風景を大きく変えるに違いありません。そのことでかつて考えられてきたような家事を効率ではなく、エンターテイメントとしての要素が大きく加わってきているのです。キッチンであれば、料理を楽しむためのキッチンですし、掃除も洗濯も楽しめる対象へと変化させていくかもしれません。そして、先のテクノロジーの進化はますます進んでいくでしょう。そうなれば裏方の仕事はロボットで、楽しむ行為は人間がすすんで行う。そんな時代が近づいてきているようにも思えます。

いかがでしょう。家事を女性の家事労働の負担軽減という視点で捉えるだけでなく、男性の家事参加によって楽しむための家事に変わっていくという考え方。もちろん男性の家事参加だけが理由ではないかもしれませんが、そう考えると、家族や夫婦の関係や、暮らしがちょっと楽しくなるような気がするのです。そしてさらにますます多くの人が、自分の暮らしの大事な要素である「家事」にもっと積極的に向き合っていく時代がくるかもしれません。

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