緑を通して、癒しとコミュニティを育む

―デュオセーヌ国立 ガーデンキーパー森井真理子さんに聞く

このシリーズでは、緑と人が共に暮らすことが、互いにどのような影響を与え合うかを知ることで、自分を取り巻く住環境だけでなく、人と人、人と街のあり方も見直すことができるのではないかと思い、「緑と暮らし」について専門家への取材をしてきました。
その中で、専門家の皆さんから「緑を育てることは、大変なことも多いが一緒に活動することで、コミュニティが育まれる」と教えていただきました。
今回は、緑を通してコミュニティを育む活動に目を向けて取材した内容を紹介します。

フージャースの提供する、シニア向け分譲マンションのデュオセーヌ国立(以下DS国立)には、地域に開いた芝生の公園とレイズドベッド※を用いた菜園(以下欅ガーデン)があります。この公園の管理と、菜園活動の指導、地域との交流イベントを企画しているのが、ガーデンキーパーの森井真理子さんです。

今回は、森井さんに緑とコミュニティについてお話を伺いました。


※レイズドベッド:露地に木の板などで土留めを立てたり、立ったまま作業ができる様にプランターに脚を付けたりして、植栽スペースをつくったもののこと。排水や風通しがよくなることから、花だけでなく野菜も栽培しやすくなる。

 

緑を増やす仕事がしたい

森井さんは、かつて建材メーカーで働いていましたが、仕事で目にする宅地開発の光景は“建設”とは言うけれど、とても“建設的”とは思えなかったそうです。

「山林を切り崩して開発する建設現場に疑問を感じ、建物に緑をプランニングする仕事をしたいと思いました。そこで近くのランドスケープデザインの会社に飛び込みで話を聞きに行きました」。

その飛び込んだ会社は、先日記事で紹介した正木 覚先生の会社だったそうです。
正木先生から、『まずは海外に行くのが一番』とアドバイスを受けた森井さんは、日本で園芸の知識を学んだ後にイギリスに行きます。
「あてもなく渡英しましたが、現地で著名なガーデンに手紙でアプローチし、運よく世界最古の植物園『英国キューガーデン』で働くことができたんです」。このエピソードから、森井さんの行動力と思いの強さが伺えます。

帰国後、造園会社やハウスメーカーで庭づくりを実践していた森井さんは、完成された美を楽しむ日本の伝統的な庭と、英国のガーデニング(・・・ing進行形の庭)文化との違いを感じる中で、次に“人と植物の繋がり”に注目するようになっていきます。

「イギリスで見た高齢者向け施設は、緑に溢れ自然の中に施設がデザインされていました。ヨーロッパでは、園芸や植物との関係性が定着しており、医療的な利用や作業療法が高齢者の暮らしに取り入れられています。その魅力を感じて、いつか日本でも園芸療法※に関わりたいと思いました」。

高齢化する社会の中で自然との関りの重要性を感じていた時に、森井さんはDS国立のガーデンキーパーの求人広告を見つけます。
「目指していたものがここにある!と、面接では自らの経験や思いを熱く語り、採用。
入社してからDS国立のガーデンのデザインを手がけたのが正木先生だと知り、運命を感じました」と、大変嬉しそうに話してくれました。


※園芸療法:『花と緑で人を癒す』療法です。園芸には「感じる・育てる・眺める・収穫する・食べる」など、楽しみながら心や身体を刺激する要素が含まれています。その結果、ストレスが軽減したり、意欲が湧いてきたり、日常生活に必要な能力の維持・向上など、心や体の健康を促進する効果が期待できると言われています。

 

緑が心に与える作用

緑と花元気に育っているレイズドベッド

DS国立では『日比谷花壇』の協力のもと、毎月菜園の作業を共同で行っています
森井さんは、コンシェルジュ兼ガーデンキーパーとして、その菜園指導を担当しています。
「ガーデンがあることで、気持ちがポジティブになるという心の変化が起きている」と、森井さんは言います。

話題によく出てくる病院通いの会話などからも、それはわかります。

「室内で会話すると、通院が苦痛というマイナス思考になりがちですが、ガーデンでお日様の下で水やりしながら話すと、まるで病院通い自慢であるかのように聞こえます。孫や子ども、自分のためにも元気でいようと励ましいの気持ちが伺えますね」。

また『水やりは大変!』と言いながら、毎日決まった時間にガーデンに来て『菜園のお世話をするのは楽しいね♪』と会話している様子からも、ガーデンはシニアの入居者の方々にとって、日々の楽しみ・心のよりどころになっているといえます。

レイズドベッド作業の様子

個人で管理するレイズドベットの数は限られているので、菜園の契約をしていない方は、なかなか土に触れる機会がありません。また、屈んだ姿勢をとるのは難しい方も多く、元々あった露地花壇の作業は敬遠されていました。
そこで、もっと多くの方に土に触れ合ってもらおうと花壇を40cm高くして、無理なく作業ができる大きな木製の共用菜園に改良しました。また、ハーブやプチトマトなど量産できたものは、いつでも収穫可能にして、誰でも自由に草花や葉物に触れることができるようにしました。「一人でも多くの方に土に触れてもらいたい」という森井さんの思いが溢れています。

 

緑に触れるイベント

菜園作業中に近隣のお子様とふれあい

「自然は手入れが大変だけど、手入れがとても大事。それをきっかけにコミュニティが育まれる街づくりをしたいんです」と、森井さんは言います。

「オープンして3年が経ち、今夏の猛暑も重なり、現在は芝生の生育不良のため一時的に『芝生内立ち入り禁止』となっています。改めて自然環境の中で植物との共生の難しさを感じましたね」。

森井さんは、マンション理事との話し合いのもと、雑草とり・芝刈りなどの作業ボランティア募集をして、芝生をより身近に感じられる機会を作りたいと考えています。また、菜園では有機農法を基本として、化学肥料を使わないため、虫や鳥の被害も多く、一晩で根こそぎ野菜がなくなっていることもあるそうです。

「菜園の失敗体験も、共に作業することで気持ちが和らぎ、『虫が食べ尽くすほどおいしいのよね!』と心の支えあいが生まれます。また住人同士で収穫した野菜を分けたり、「○○さんのトマトの葉っぱに毛虫がいたよ」と声をかけたりと、日常のコミュニケーションも活発になってきましたよ」と、森井さんは言います。

また、育てた野菜や果実の収穫の時期には、近隣の方を招いて収穫を体験してもらう企画も行っています。
このように毎月の菜園活動や収穫体験のほか、入居者や近隣の方も気軽に参加できる小さなイベントから規模の大きなイベントまで、欅ガーデンの四季折々の景色を楽しみながら「植物に触れる・嗅ぐ・食べる」体験ができる数多くのイベントを行っています。

イベントの事例をいくつか紹介します。

日頃から、レイズドベットは菜園契約者が、露地花壇はボランティアの方々が担当します。 ハーブの寄せ植えでは、ハーブの効能を学びながら寄せ植えをしました。毎回、収穫体験には、近隣の方もたくさん訪れます。

昨年の10月23日(土)には欅ガーデンにて地域交流イベントとして、ハロウィンイベントを開催。ヤギを2匹レンタルし、午前中は、近隣の保育園児を招待し、入居者と保育園児がヤギと触れ合う時間。午後は、仮装した入居者から地域の子どもたちにハロウィンのお菓子をプレゼント。この日は100名以上の方が集い、地域の方々との和やかで温かな交流ができ、にぎやかな欅ガーデンとなりました。

今年5月に行われたブルーベリーの収穫体験には、暑い中多くの方が参加し、甘酸っぱいブルーベリーをおいしく食べながら、会話も弾んでいました。


イベントから、日常のコミュニティへ

今年の5月に開催した地域イベントでは、入居者48名、近隣の方々が98名参加しました。このように多くの方々の参加に結び付いた要因として、2つのことがあります。
1つ目は、イベントを通して知り合った方々が、再び公園やガーデンで出会い、挨拶を交わし、関係が継続していること。2つ目は、日常的にコミュニケーションが取れているため、次のガーデンイベントを楽しみに声を掛け合って参加していることです。
DS国立では、芝生の公園やガーデンが一般にも開放されていることで、イベントなどの「ハレの日」と、日常の「ケの日」がうまく作用し、コミュニティの輪が広がっているように感じます。

季節ごとに変わるスタッフ手作りの顔はめパネルは、小さい子どもに大人気です。
犬の散歩途中に立ち寄ると、近隣の子どもたちや入居者が集まります。

道路に面した芝生の公園は、街に開かれ誰もが入りやすい設計で、近所の園児のお散歩コースになっています。レストラン前に置かれた『顔はめパネル』は、季節行事を知る学びの場にもなっています。夕方には、園児がお母さんと一緒に立ち寄り、昼間に学んだことを説明する姿も見かけます。また、赤ちゃんが芝生でハイハイの練習をしていたかと思うと、タッチした、歩いた、走ったと、子どもの成長を入居者と一緒に見守ることもよくあります。

「赤ちゃんや小さい子どもは、入居者にとってはお孫さんの様な存在です。子どもたちが来ると入居者も集まってきます。特に成長を見守ったお子さんは、入居者にとっては小さなアイドルで、大きくなった今でも時々訪れてくれます。最近は、2代目の小さなアイドルもいるんですよ」と、微笑ましいお話を聞かせていただきました。

よちよち歩きの赤ちゃんから、近所の小学生まで、芝生は子どもたちにとって、気持ちのいい遊び場所です。

小学生は芝生の近くにある石の囲いを利用して遊んだり、犬の散歩に訪れる人がいたり、レイズドベットの野菜の育て方を見学に来たりと、日頃から世代を問わず多くの人が立ち寄るそうです。そして訪れる人との会話を楽しみに、入居者の方も外に出てこられるそうです。

このようにコミュニティが成り立っているのは、道路に面して共用部が街に開いているから、公園が芝生だから、入居者がシニアだからということもありますが、森井さんの声掛けの努力もあると思います。
そのことを森井さんに伝えると、「最初は、公園があることで入居者様には、騒がしいとか、嫌な思いをするかと気にしていました。ところが、街に開いた公園があることを理解して、購入されているので不満の声はありません。コンセプトをきっちり説明、理解して住んでもらうことはとても大切なことだと思います」と、コンセプト理解の重要性を話してくれました。これは、このシリーズで今まで取材した方と同じ考え方です。

「そのうえで、ガーデンキーパーのような人がいると、一層コミュニティが充実します。今は、植栽管理は管理会社にやってもらうというのが常識という世の中です。それが、管理は自分たちでするという社会になるまでは、ガーデンキーパーのような役割は大事だと思いますよ。そして、私たちの仕事が常識を変化させるきっかけになればいいなと思っています」と、森井さんは笑顔でおっしゃいました。

 

取材を終えて

コミュニティを育むには、イベントだけではなく、それがいかに日常のコミュニケーションにつながっていくかが大切だと、改めて思いました。
緑は1人では育てることはできませんから、必ず誰かの手が必要になります。また1日では育たないので見守り、日々手をかける必要があります。そういった緑を育てる手間を目的に、結果としてコミュニティが育まれていくことが、DS国立のお話を通して分かりました。街に開かれた公園が人を呼び、植物を通して日常のコミュニティが育まれる。そして、緑を眺めて楽しむだけでなく、触れる、嗅ぐ、食べると、五感に働きかけることで、一層コミュニティは深まっていくようです。

フージャースでは、こういった緑のある暮らしが実現できるマンションを、今後も企画していきたいと考えています。

 

プロフィール
森井 真理子(もりいまりこ)

グリーンアドバイザー
1級造園施工管理技士
2級建築士・2級建築施工管理技士

大学卒業後、建材メーカーにて9年間勤務
1997年~東京都立園芸高校専修課程修了
1999年~英王立植物園(キューガーデンズ)Tropical sectionにて研修
帰国後、造園会社を経て、ハウスメーカーに18年間勤務
2020年~(株)フージャースケアデザイン運営本部デュオセーヌ国立在勤中